将棋王座の中村太地さん=東京都渋谷区、池永牧子撮影
希望はどこに 将棋棋士(王座)・中村太地さん
将棋棋士の羽生善治さんが昨年、史上初の「永世七冠」を達成して話題になりました。その羽生さんを昨秋のタイトル戦で倒し、「王座」を奪い取った気鋭の20代棋士が中村太地さん(29)。シリーズ企画「希望はどこに」の第6回。今の時代の生き方を尋ねると、プロ棋士よりも強くなった人工知能(AI)の登場に将棋界が受けた衝撃と、そこからどう希望を見いだしたかを語ってくれました。
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いまや、人工知能(AI)を使った将棋ソフトが、人間よりも強い時代になってしまいました。「強さ」をよりどころにしてきたプロ棋士の世界は、その存在意義を大きく揺さぶられています。
昔は弱かった将棋ソフトが急速に進化したのは、この10年ほどです。2007年に渡辺明竜王(当時)が戦った時は人間が勝ちましたが、棋士とソフトが定期的に戦う電王戦(12~17年)で本格的に脅威となり、17年春にはついに佐藤天彦名人が連敗しました。いつかプロを超えるかもしれないとは思っていましたが、まさか自分が20代のうちに名人まで倒すとは思っていませんでした。
棋士は絶対的に強い存在だと思ってくれていたファンの中には、AIに負けて、泣いてしまう人までいました。私自身、残念だったし、人間の棋士はいらなくなってしまうのではないか、将棋界はどうなってしまうのか、とさえ思いました。走力や腕力では動物や機械にかなわない人間の一番の強みのはずだった、頭脳の領域まで人間以外に脅かされるのは、受け入れがたいことでした。
そんな中、うれしかったのは、多くのファンに「やっぱり人間同士が指す将棋が面白い」と言ってもらえたことです。
AIの進化で新たな物語
先が分からないから怖いと思うか、楽しいと思うか。「自分を適応させた者だけが見いだせる希望がある」と中村さんは語ります。
たとえば、人間は疲れたりプレ…