自殺したソニー社員の男性の母。関西の自宅で子どもの頃のアルバムをめくり、ため息をついた
上司の叱責(しっせき)や職場の人間関係に苦しんで心の病を発症した後で、より深刻な長時間労働やパワハラで症状が悪化し、自殺に至った――。こんなとき、今の労災認定基準ではなかなか労災が認められない。病気が自然に悪化したのか、仕事が原因なのかが判然としないというのが主な理由だが、遺族や専門家は労災認定基準の見直しが必要だと訴えている。
ソニーのエンジニアだった男性(当時33)は2010年8月20日、神奈川県内の自宅で自ら命を絶った。関西に住む両親は、前日まで続いた「人事面談」が自殺の引き金になったと考えている。両親によると、男性は同年2月以降、人事部の担当者と十数回の面談を重ねていた。退職を促す意味がある面談で、人事担当者が面談時に書いたメモには、男性に伝えたとみられる内容が列挙されていた。
〈1週間、将来について考えてもらう。社外もけんとう のこりたいなら、気づきを説明せよ〉〈本当に自分の将来を決めるタイミングです〉
自殺前日の面談時のメモによると、男性はキャリアを振り返ってリポートを書くよう命じられていた。リポートの文末に「最後のチャンス」と書くよう指示もされていた。
男性は6歳の時に脳腫瘍(しゅよう)が見つかった。左半身などに障害を抱えながら勉強に励み、大阪大大学院に進学。04年春にソニーに就職した。上司から「子どもでもできる仕事しかしていない」などと叱責(しっせき)を受けたこともあったが、男性は耐え、エンジニアとして成長することを目指していた。
母は嘆く。「ソニーへの入社は…