刑事裁判と求刑
刑事裁判の終盤に刑の重さについて意見を述べる検察官の求刑で、地域の特性に応じて他の地域よりも重くする事例があることが検察関係者への取材でわかった。名古屋地検は2016年6月以降、飲酒や無免許などで車を運転し、捜査段階で否認した被告への求刑を重くした。東京や大阪地検でも重くした例があり、最高検も求刑の地域差を許容しているが、判決に与える影響を懸念する声もある。
「罰金刑」と思ったのに… 求刑重くした裁判を傍聴
名古屋地検によると、対象は「交通3悪」と呼ばれる①酒酔いや酒気帯び運転②無免許運転③速度超過――の道路交通法違反事件で、被告が捜査段階で否認して起訴されたもの。裁判で一転、罪を認めても求刑は重くする。
連続全国ワースト(17年までで15年連続)の愛知県の交通死亡事故に歯止めをかけようと、管内の事件で始めた。昨年末までに約20件で重くしたという。地検幹部は「重くすることで被告の規範意識を覚醒させ、死亡事故の抑止にもつながれば」と話す。
最高検幹部は「求刑に地域で差をつけることは一定程度許容している。そもそも求刑に『基準』はない」と説明する。例えば、東京地検では特殊詐欺に関与した被告の求刑を重くしている。また大阪地検でも、ひったくり事件が多かった時に重くしたことがあったという。
一方、東京のベテラン裁判官は「裁判官が地域差で量刑(罪の重さ)を決めることはない。判決に影響しない」と話す。(仲程雄平)
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〈求刑〉 検察官が相当と考える刑罰を裁判所に意見すること。求刑の規定は刑事訴訟法にないが、公判の最終盤で法律の適用などについて意見する「論告」の一部に位置づけられる。実務では論告の結論として述べられる。一般的に判決は求刑の7~8割と言われるが、求刑より重くなることもある。求刑はあくまでも検察官の意見で、「裁判官は検察官の求刑に拘束されない」とした判例もある。