バス会社側の起訴と事故の再発防止を求める署名を集める、池田衣里さんの母親(左から2人目)=2017年11月、神奈川県相模原市、大野択生撮影
長野県軽井沢町でスキーツアーのバスが崖下に転落し、乗客の大学生13人と運転手2人が死亡した事故から15日で2年。我が子を突然失った遺族は事故の再発防止を願い、バスを運行した会社の社長らへの刑事処分を求めて署名活動を続けている。
「まだ何も始まっていません。一人でも多くの方の力を貸してください」
事故で亡くなった池田衣里(えり)さん(当時19)の母親は昨年11月、神奈川県内の駅前で、行き交う人たちに署名を呼びかけた。衣里さんの友人の親も協力し、一緒に立っていた。
署名は、バス会社の社長(56)と当時の運行管理者(49)の起訴と厳罰を求める内容。2人は運転手への適切な指導監督を怠ったなどとして昨年6月、業務上過失致死傷の疑いで長野地検に書類送検された。起訴をするかどうかの捜査は、現在も続く。
東海大1年だった衣里さんを失った直後、母親は「留学しているんだ」と考えるようにしたが、一周忌を終えた後、悲しみや疲れがどっと押し寄せた。つらい時期を支えてくれたのは「ママ友」たち。連日墓参りに来てくれ、食事にも連れ出してくれた。中学からテニスに打ち込み、生真面目で頑張り屋だった娘のため何ができるのか、考える余裕が生まれてきた。
事故から2年近くがたち、「(世間の)半分くらいの人は、事故は終わったと思っている」。風化していくことに危機感が募り、遺族会の一人として署名を始めた。
報告書で知ったバス会社のずさんな安全管理に衝撃を受けた。社長ら2人が起訴され、裁判でどうして事故が起こったのかを明らかにしてほしいと願う。「13人の命を無駄にしたくない。残された私たちが活動していかなくては」
首都大学東京2年だった田原寛さん(当時19)も事故で亡くなった。父親の義則さん(52)は昨年11月、息子が通った南大沢キャンパス(東京都八王子市)の大学祭の一角で署名を集めた。遺族会代表を務める義則さんは「裁判の場で会社側にも問題があったと明確にすることが、再発防止につながる」と語る。
遺族会を中心に、街頭やネットで集めた署名は約4万2千筆。22日に、地検へ提出する予定だ。(大野択生、津田六平)
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長野県軽井沢町の事故現場には14日、事故で法政大のゼミの教え子4人を亡くした教育評論家の尾木直樹さん(71)や、救助活動にあたった佐久広域連合消防本部の職員12人らが次々と訪れ、祈りを捧げた。
4人の遺影を普段から持ち歩いている尾木さんは午後1時半ごろ、現場に到着。四つの花束を一つひとつ丁寧に手向け、目を閉じて合掌した。「一日も忘れることはない」「(事故で負傷し)これから手術を受ける人もいる。事故はまだ全然終わっていない」と厳しい表情で話した。(大野択生)
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〈軽井沢のバス転落事故〉 2016年1月15日午前1時50分ごろ、長野県軽井沢町の国道18号で、大型バスが約5メートルの崖下に転落し、15人が死亡、26人が重軽傷を負った事故。国の事故調査委員会の報告書によると、約95キロで下り坂を走行し、カーブを曲がりきれなかった。事故をきっかけにバス会社の安全軽視の実態が明らかになり、国がバス会社の事業許可を更新制にするなどした。