模擬投票に向けて打ち合わせをする「〈9条3択・国民投票〉の実現をめざす会」のメンバーら=1月14日、東京都文京区
憲法9条に自衛隊を明記する改憲案を安倍晋三首相が打ち出し、改正に必要な国民投票も現実味を帯びる。「戦力を持たない」とする条文と自衛隊のあり方をどう捉えればよいのか。市民団体は今月15、16日に与野党の国会議員を招いて模擬国民投票を実施。議論を通じ、憲法への理解を深めようと模索する。
東京都内で1月14日にあった市民グループ「〈9条3択・国民投票〉の実現をめざす会」の会合。約20人が憲法9条について、「現行条文」「自民党で検討している改正案」など条文案を選択し、それぞれの解釈に基づき五つの立場から議論した。企画している模擬国民投票のリハーサルという位置づけだ。
企画メンバーの一人のジャーナリスト今井一さん(63)は「首相の改正案は自衛隊の存在をあいまいにした現状を追認するだけのもの」と指摘。その一方で「護憲派も条文を守ることに固執し本質的議論を避けている」とし、「この試みで、国民投票の前に真の論点をあぶりだしたい」と狙いを話す。
議論は熱を帯びた。
「自衛を含めあらゆる戦争を放棄するとの解釈で現行条文を護持」という参加者が「自衛戦争とそれ以外の戦争との区別は明確ではなく、一切の戦力を認めるべきではない。第2次大戦の教訓と人類の理想を胸に、自衛隊は縮小・解体すべきだ」と述べると、「非武装など現実的ではない。国民の支持を得られると思っているのか」と反論が出た。
安倍首相が提案する「現行の1項、2項を残し自衛隊を明記する」との案に賛同する参加者が「国民の8割以上が自衛隊を容認している。違憲論を封じるために書き込むのは悪いことではない」と訴えると、別の参加者は「それでは2項と矛盾する。自衛隊が戦力でないと言い張るのは無理」と切り返した。その他の参加者も「自衛隊の存在は明らかに9条に反している」「必要最低限度の範囲内なら必要」「では書き込んでもいいのでは」「憲法は理想を掲げるもの。現実に合わせるのは違う」と応酬した。
浮き彫りになったのは、「護憲派」や「改憲派」とくくられる人たちの間でも主張が一様ではないことだ。企画メンバーの映画監督宮本正樹さん(44)は「模擬投票自体よりも、その前の熟議にこそ意味がある。国民投票をきっかけに国民が自ら考えを深めて答えを出すことに踏み出せば、国民主権と立憲主義を取り戻すことにつながるはず」と語る。
模擬投票は東京・永田町の参院議員会館である。リハーサルと同じ五つの立場で、自民、立憲、希望、民進、共産各党の国会議員が市民12人と議論する。(石川智也)
■現行の憲…