準決勝の韓国との試合前、笑顔を見せる日本の(右から)藤沢、吉田知、鈴木、吉田夕=白井伸洋撮影
平昌五輪カーリング女子準決勝、日本(LS北見)―韓国戦を東大カーリングサークルが母体の「チーム東京」のメンバーがリアルタイム解説しました。延長にもつれ込む展開に、藤沢五月(26)らLS北見の5人を知り尽くす頭脳集団も大興奮でした。
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おやつタイムもいいけど
試合が終わって10分以上経っても、チーム東京の2人、岩永直樹(33)と橋本祥太朗(30)の興奮は冷めやらない。
「これがカーリング。日本の方々もこんな試合を見られたら、おやつタイムだけでなく、カーリングの試合そのものを好きになってくれるはず」
「負けたけど、爽やかな気持ちにさせてくれた。日本は『やることをやった』と気持ちを切り替えて、明日の英国戦(3位決定戦)に臨んでほしい」
《延長の第11エンド》
第10エンドで追いついた日本は不利な先攻。しかし互角の展開に持ち込み、スキップ藤沢五月は冷静にセンターガードを置き、相手に重圧をかけた。
韓国は第10エンドで日本の圧力に屈しただけに、慎重に時間をかけて作戦を考える。韓国のスキップの第1投は「センターガードをぎりぎりかわして、ハウス内の日本の石をナンバー3まで下げた」。
スキップ藤沢のラストショット。「ここでナンバー1を取れなきゃ負けです」。ヒット&ロールで何とかナンバー1を確保した。「やるべきことはやって、韓国のスキップに重圧をかけた。できる範囲内でやれることをすべてやった」。
韓国のスキップのラストショット。重圧がかかるなか、「ナイスショット、ナイススイープ」。赤い石がハウスの真ん中へ。日本は7―8で負けた。
「悔しい。でも、鳥肌が立ついい試合だった。」
「この試合はやばかった。勝てばカーリング史に残る伝説の試合になったはず。負けても伝説に近い試合だったと言える」
チーム東京の2人の興奮も収まらなかった。
《第10エンド》
韓国のサードのダブルテイクアウトで会場から歓声が上がったが、韓国の赤い石が(ハウスより手前の)センターのガードの位置に残った。
「日本がのどから手が出るほど欲しかったセンターガードの位置に逆に韓国の石が残った。日本にとってはすごくいい展開。日本はこのエンド、やるべきことをずっとやってきて、ついにチャンスが転がり込んできた」
日本のスキップ藤沢五月は第1投で、このガードストーンの裏に回り込むようにハウスの中に石を入れた。韓国のスキップの第1投はこのガードストーンをはじき出した。
藤沢の第2投は、新しいセンターガードを置くショット。「韓国の最後のショットは、ドローか日本のナンバー1をはじき出すショットのどちらか。すごく重圧がかかる。日本はやれることはやって、相手に重圧をかけた」
韓国のスキップのラストショットは日本の石を押したが、自分の赤い石も押し出されてしまった。日本は1点をスチール。
「おお、すごい。神がかりだ」
チーム東京の2人も大興奮だ。7―7。延長エンドへ。
《第8、9エンド》
日本は第8エンドは不利な先攻だったが、1失点でしのいで4―7に。有利な後攻の攻撃権を持って第9エンドに突入した。「日本はとにかく第9エンドで2点以上取ること。もうリスクを冒すしかない。1点しか取れなかったら、スチールされるのと同じぐらい厳しくなる」
第9エンド、スキップ藤沢五月のラストショット。2点を取りにいくしかない。ナンバー1(ハウス中心に一番近い石)は韓国で、ナンバー2は日本。ナンバー1に当てて、自分の石を真ん中に残すショットを藤沢は放った。これが見事に決まって日本は6―7と追い上げる。「よく決めたな。本当にあのラインしかなかった。まだ粘れてる。まさに『五月大明神』だな」とチーム東京の2人も興奮気味だ。
《第7エンド》
日本の4―6で迎えたこのエンド。有利な後攻だった韓国がブランクエンド(両チームとも無得点)にすることに成功した。「2点勝っている韓国が(この先スチールがなければ)第8、第10エンドで後攻を持てる。韓国が優勢です」
日本はこのエンド、二つの考え方ができた。「1点を韓国に取らせれば、日本は後攻の第8エンドで2点。第9エンドで1点だけ取らせ、第10エンドでまた2点取れば同点に追いつける。それで延長エンドで1点のスチールを狙う」。あるいは、「1点のスチールを狙う。第8エンドで1点取らせ、第9エンドで2点取って同点。そして先攻に回る不利な第10エンドで1点をスチールして勝つ」。
だが、どちらもできなかった。「日本は第8、第9、第10とすべてスチールするしかない。とにかく攻めきるしかなくなった」
質問もどしどし来てます
読者からの質問も数多くいただいています。「氷の状況が変わる第6エンドで前半と同じように攻め、変化に対応しきれず失点した試合が少なくないと思います。あえて第1エンドと第6エンドはクリーンに進めるのが堅実だと思うのですが」
質問もかなり専門的になってきました。チーム東京の橋本祥太朗が答えます。「おっしゃるとおり、それが堅実なゲームプランだと思います。この試合の場合、3点負けているとはいえ、3エンドあれば追いつけるので、第6エンドをクリーンにいくのも堅実なプランと言えます。一方で、まだ残りエンドの数があるうちに早く追いついておきたいという気持ちも分かります。後半の第8、9、10エンドで追いつくプランなのか、第6エンドから攻めにいくのか。どちらが絶対に正しい、間違いということではないです」
おやつタイムを経て、さあ後半戦!
日本は前半の5エンドを終え、3―6と劣勢。ハーフタイムのおやつは今大会恒例のイチゴだった。
J・D・リンドコーチ、小野寺亮二コーチ、フィフス(補欠)の本橋麻里を交え、7人で話をした。後半、どう巻き返すのか。
「もう攻めるしかない。でもまだ3点差。後攻で無理に3点取ろうとしてスチールされる必要もない」「氷がすごくよく曲がるので、ガードストーン一つ、もしくはハウス内の相手の石の裏に自分の石を隠すなどして、複数点も狙える。負けているからといって無理な展開をつくる必要はない」とチーム東京の2人は分析する。
《第3エンド》
有利な後攻の韓国に「最大6点取られるピンチだった」。でも韓国のスキップのラストショットも精度を欠き、1失点でしのいだ。日本2―4韓国。
「ラッキーだった。日本は突っ張りすぎ(攻め急ぎすぎ)。不利な先攻なのに、分が悪いリスクを背負いすぎてしまっている」「(先攻でも点を取る)スチールをできそうな展開でもないのに攻めると、ハイリスク、ローリターンの展開になってしまう」
このエンドの途中、日本のJ・D・リンドコーチとフィフス(補欠)の本橋麻里の表情が一瞬、テレビに大きく映し出されたが、「試合展開に戸惑っているように見えた。目を覚ませ、落ち着いて、と」。第5エンドが終われば、ハーフタイムで選手4人はコーチや本橋と話ができる。「早くリンドや麻里さんに会わせてあげたい展開です」
「今日のアイスは世界標準」
読者から、「今日のアイスは曲がりが急な気がするのですか、世界標準に近いアイスコンディションなのでしょうか?」との質問がきました。
「はい、今日のアイスはよく曲がる世界標準のいい氷だと言えます。第2エンドのさっちゃん(藤沢五月)の1投目のように、ハウス内の相手の石の後ろに隠してチャンスをつくることが出来るのも、このような世界標準の曲がりがある氷だからこそ出来ます」
《第2エンド》
スキップ藤沢五月がいいドローショットを二つ決めて、日本は有利な後攻で2点を返した。ラストショットは韓国の赤い石をぎりぎりすり抜け、日本の黄色い石がハウスの中心に。「さっちゃん(藤沢)の二つ目のショットは、(リード吉田)夕梨花ちゃんと(セカンド鈴木)夕湖ちゃんのナイススイープ。もし韓国の石に当たったら、1点をスチールされていたから、3点分の価値があるスイープだった」。これで日本2―3韓国。
「さっちゃんの集中力にスイッチが入った」
読者からの質問
「第1エンドの先攻・後攻はどのように決まりましたか? 一般的に第1エンドで先攻または後攻、どちらかを選ぶことが有利ということはありますか?」
チーム東京の岩永直樹が答えます。「第1エンドの先攻後攻は、1次リーグの成績で決まります。1次リーグ1位と日本(4位)より上位で通過した韓国が自動的に有利な後攻に。もちろん後攻の方が有利です。そのエンドの最後に石を投げられるから。しかも第1エンドで複数点を取ると、試合の立ち上がりを優位に進めることができる」
さらに質問をいただきました。「今回のオリンピックで、解説の方がよく『ウェート』という言葉を使われていますが、どういう意味なのでしょうか?」
チーム東京の橋本祥太朗が答えます。「石が滑る速さのことです。ウェートが強いとかウェートが弱いとか言います。ウェートが強いと石は速く進み、ウェートが弱いと遅く進みます」
《第1エンド》
日本はいきなり3失点。チーム東京の岩永直樹(33)と、橋本祥太朗(30)は「ちなみちゃん(サード吉田知那美)のところで、リスクを取って石を置きにいくショットを選択した。ほぼ狙ったところにいったけど、直後に投げた韓国のサードにうまい崩し方をされた」と分析。
「さっちゃん(スキップ藤沢五月)のラストショットで何とか3点に抑えられた。4点取られてもおかしくなかった。3点で良かったと思うしかない」「第1エンドからいきなり突っ張りすぎた(攻めにいきすぎた)。ちょっと準決勝の雰囲気にのまれているかもしれない」
「韓国は強敵」
チーム東京の岩永直樹(33)と、橋本祥太朗(30)は「韓国は国を挙げて、このチームでずっと練習してきた。フィフス(補欠)を含む5人全員が同じような投げ方をしている。デリバリー(投げ)の技術に癖がないから、難しい氷でもショットがばらつきにくい」。
1次リーグの韓国のショット成功率は79%と高い。投げ方が全員バラバラだと、氷を読みきれずに修正したい時、一人一人が修正しないといけないが、全員が同じ投げ方だと修正も一通りで済む。「韓国にはそういう強さがある」
一方の日本は1次リーグのショット成功率は75%。10チーム中9位だった。それでも、勝ちを拾ってきた。「調子の悪いときは無難にいく。そして調子がいいときに畳みかける。スキップのさっちゃん(藤沢五月)を中心にチームとして勝負どころをうまく見極め、大事なところで決められている証拠だ」と話す。
地の利ならぬ「氷の利」は?
韓国は1次リーグを8勝1敗の1位で通過。唯一、日本戦で敗れたものの、今大会は絶好調だ。
開催国の韓国チームに「地の利」ならぬ「氷の利」はあるのか。
慣れた会場で出来るのは確かに有利だ。日本でもLS北見などが本拠を置く「北海道・常呂」、SC軽井沢クラブや中部電力が活動する「長野・軽井沢」の2大会場のどちらで主要大会を開催するのか、議論になることがある。
だが、カーリングは「氷を読む(アイスリーディング)」という言葉がある通り、試合ごとに氷の表面の状態は異なる。
カーリングの試合前には、じょうろのようなものを使って水をまく。それが固まるとペブルとよばれるブツブツが出来る。その状態によって、ストーンの滑りや曲がりが異なる。
水をまく役割を担う人は「アイスメーカー」と呼ばれる。準決勝ではカナダ人のアイスメーカーが氷をつくるという。その意味では、韓国に氷の利があるとは言えない。
日韓どちらが先に「ブツブツ」を読み切るかが、試合のカギを握る。(構成・平井隆介)