英国との試合前、練習する本橋(左から2人目)ら=北村玲奈撮影
平昌五輪でカーリング女子の日本(LS北見)が日本勢として男女通じて初の銅メダルを獲得した24日の3位決定戦、英国戦を東大カーリングサークルが母体の「チーム東京」のメンバーがリアルタイムで解説しました。日本カーリングの歴史を塗り替えた一戦を語り尽くしました。
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戦い終えて
カーリングで日本初の五輪のメダルを手にしたLS北見。チーム東京の岩永直樹(33)も感慨深げだ。
「カーリングという競技はコミュニケーションを取って、意志決定をして、それを実行する、というプロセスから成り立っています。情熱を共有して、そのプロセスを楽しみながら結果に結びつけていく。それはスポーツに限らず、日常生活にも共通することだと思います。この大会の日本勢の活躍を見て感動したみなさんの、明日からの元気や勇気につなげてもらえればうれしいです」
ラストショット、英国の狙いは?
劇的な日本の勝利。英国はナンバー1を持っていたのに、スキップのミュアヘッドはラストショットで強いウェートで石を出しにきた。「英国の最後の一投の狙いは何だったのでしょう?」。こんな質問を読者からいただきました。
「さっちゃん(藤沢五月)が最後に投げてハウスに残した石を使って(いずれも日本の)ナンバー2とナンバー3を両方を出し、銅メダルを自らの手で取りに行くショットだった」
「わずかにミスになり、日本が1点をスチールしたが、もう5センチ石が曲がっていれば、英国が2得点して銅メダルを取っていたはず。すでに確定していた1点に妥協せず、銅メダルを自分のショットでもぎ取ろうとした。そのチャレンジをたたえたいです」
《第10エンド》
日本の1点リードで迎えたこのエンド、英国は一気に2点を取って、逆転勝ちを狙ってくる。「逆に日本は、英国に1点を取らせて延長エンドに持ち込んでもいいという考え方」。ハウスの中心部に両チームの石がたまる難しい展開になった。
スキップ藤沢五月の2投について「どちらもスイープが良かった。かわしたい石にミリ単位でひっかかったが、ぎりぎり置きたい場所に置けた。あと一掃き、二掃き足りなかったら、ぶつかっていた。チームみんなの勝利です」
後攻の英国。最後の一投を残し、ナンバー1の石は英国だった。ミュアヘッドは敢えてリスクを冒し、2点を狙って強いショットを放った。
しかし、これが失敗。逆に日本の石をナンバー1に押し込んでしまった。日本は5―3で勝ち、銅メダルを手にした。
「ミュアヘッドのミスが目立った。一方、さっちゃん(藤沢五月)には目立ったミスはなかった。100%ではなかったけれど、仲間のスイープを上手に使って、大きなミスを避けた。それが勝ちにつながった」
さっちゃん、勝負のカムアラウンド
第9エンド。藤沢五月の第1投はガードストーンの裏側に回り込んでハウスにドローするカムアラウンド。「勝負の一投は完璧だった。石を好きなところに置いてくれ、といわれたらここに置く」
ミュアヘッドの第1投で一度局面を壊された後、藤沢の第2投。「勝負のカムアラウンドその2ですね。これもナイスショット」
ミュアヘッドのこのエンド最後のショット。「ブランクエンドにしたい英国はすべてをはじき出したい」。しかしハウス内の日本の石をはじき出せずに、日本がこの試合初めて、1点をスチールした。日本4―3英国。
「ミュアヘッド、この試合、全然きてないですね。英国は第10エンドで必ず2点を取りにくるけど、ミュアヘッドがまったく合っていない。日本はこのまま押し切ってほしい」
《第8エンド》
先攻の英国のスキップ、ミュアヘッドのラストショットはミス。日本は2点を取ろうとして失敗したが、1点は取った。「でも日本はナイストライだった。第10エンドで後攻が巡ってくる可能性が高まるので、第8エンドで得点することは(仮に1点だけだとしても)決して悪いことではない」。3―3の同点で第9エンドへ。
勝負のあやは
「第7エンド、英国のラストショットは日本のハウス外のストーンの前にフリーズでしたが、日本のストーンの前に寄せたのは何か理由がありますか?」
かなり専門的ですね。いい質問です。「英国にとってもっとも都合の悪いブランクエンドを避けるために、自分の石が取り除かれないフリーズショットを選択しました。ほぼ成功でしたが、さっちゃん(藤沢五月)のテイクアウトの精度がまさり、日本は意図した通りブランクエンドにできました」
《第7エンド》
先攻の英国のリードが、ハウス手前にセンターガードを置いてきた。ここまでエンドを静かに終わらせてきたが、潮目が変わった。
「自らガードを置いて、ガードの裏側のドローショットの攻防に持ち込んできた。スチールしにきている。もしくは積極的に日本に1点だけを取らせにきている」
このエンドも日本のブランクエンドになると、(その後、スチールがない限り)第8、第10エンドと日本が後攻を取れる。それを英国が嫌がっている。
勝負が動き出した。
日本はスキップ藤沢五月のラストショットでピール(石をはじき出して、自分も出る)に成功。決して簡単ではないショットを決めて、ブランクエンドにできた。第8エンド、日本はまた後攻の攻撃権を持てる。「日本は狙い通り。この試合、延長エンドまで行くかもしれない」
ハーフタイム
日本のおやつは今日もイチゴ。英国はフルーツやナッツ系だった。
第6エンドは日本が後攻。「後半の立ち上がりで氷の変化が起きやすい6エンド目は、日本は落ち着いてブランクエンドを狙うのも悪くない。攻め急ぐ必要はないと思う」
まだ両チームとも流れをつかみきれない。「残りのエンド数を意識し始める第7、第8エンドで、どちらかのチームの仕掛けがあると思う。ここで動きがある」
石がピカピカ?
ここでまた読者から質問です。「なんかストーンにLEDライトみたいのついてます?? ピコピコ光ってませんか??」
はい。緑色もしくは赤色に点灯するランプが石に仕込まれています。
「氷の中にもセンサーが仕込んであります。投げる側にある赤い線(ホグライン)を越す前に石から手を離さないと、赤ランプが点灯し、反則となります。ハンドルが金属でコーティングされているのは、手が接触しているかを検知するためなのです」
ちなみにホグとは「豚」という意味だそうで、「昔はミスをしてしまった選手が、豚の貯金箱に罰金としてコインを入れる慣習があったため、この名前がつけられたそうです」。
《第3、4エンド》
「(英国のスキップ)ミュアヘッド、合ってないですね」
チーム東京のメンバーが「ツヨカワ系」と評する元世界女王、ミュアヘッド。第3エンド、後攻だった英国はブランクエンド(両チーム無得点)にして、続く第4エンドも後攻の攻撃権をキープしたかった。
ハウス内には日本の黄色い石が一つだけ。ミュアヘッドは、これを弾いて自分の石も外に出すことを狙ったが、日本の石の芯に当ててしまい、自分の石をハウス内に残してしまった。これで英国に1点。
第1エンドも同じような展開で英国は1点だけ「取らされた」。
「ミュアヘッドは戸惑っているように見える。何が悪いのか、自分でもよく分かっていない感じ。今は自信を持って投げられる状態ではない。日本はこの間に複数得点がほしい」
第4エンド、日本は2点を取る好機だったが、藤沢五月のラストショットは曲がりすぎ、ハウス中心部を逃して1点にとどまった。「日本も英国もまだ氷を読み切れていない。小康状態が続いている。まだどちらにも試合の流れは行っていない。最初の流れをどちらがつかむか」
サウスポーの妙
英国のサード、スローンは左利きだ。ハック(投げる時に足で蹴る足場)は左右に二つあるが、左利きの選手は右側、右利きの選手は左側のハックを蹴らないといけない決まりがある。
第2エンド、スローンは右側のハックを蹴って、ハウス左側のコーナーガードの裏に完全に石を隠すことができた。石が、より角度のある軌道を描いて、きれいに裏に回り込めたのは、右側のハックを使えたから。「この1投が、英国が日本にこのエンド1点だけを取らせるキーショットになった。右利きの選手が左側のハックを蹴って同じ軌道の石を投げるのは難しい」。日英通じて、ただ一人のサウスポー、スローンのショットがこの先もカギを握るかもしれない。
スキップだけ長袖?
「スキップの人だけ長袖なのは、そういう決まりですか?」との質問を読者からいただきました。
お答えします。「そういう決まりはありません。ただ、会場の気温は約10度。基本的にスイープをしないスキップにとっては、長袖を着ないと、かなり寒いです。スイープをしている人がみんな半袖なのは、それだけスイープにエネルギーを使っているということです」
《第1エンド》
日本は先攻。注目のリード吉田夕梨花の第1投はハウス手前のセンターに、ガードストーンを置いた。ここまでは昨日の準決勝と一緒。でも相手の出方が今日は違った。
「韓国はその裏にカムアラウンドしてきたが、英国は裏に回り込まずに、ハウスの中に入れてきた。『いつでも打って(石をはじき出して)いいですよ』というサインです」
「英国はかなりディフェンシブな立ち上がりです。このエンドは勝負しない、氷の様子を見ながら、ゆっくり攻めていくという選択をした」
ブランクエンド(両チーム無得点)を狙った英国に、1点だけ取らせた。第2エンドで後攻の攻撃権をとる、いい立ち上がりになった。
審判はどこに?
今夜もさっそく、読者の方から質問をいただきました。
「どうして審判がいないのにスコアボードがあるのですか?(後略)」
カーリングにも審判、いるんです。チーム東京の岩永直樹(33)が答えます。
「審判、います。でもカーリングは両チームの選手同士によるセルフジャッジで進む競技なので、基本的に審判は介入しません」「選手たちが目視で判断できない場合の計測、選手が石に触ってしまったなど反則があって選手同士で解決できない場合などに登場します」。よく見ると、この平昌五輪でもスコアボードの横に、黒い服を着た審判が座っていますね。
英国戦のポイントは?
チーム東京の岩永直樹は英国戦について「メダルのかかる試合としては、昨日の韓国戦に続き2回目となります。今日は、ゲーム全体、特に序盤のペースをきちんとつかめると思うので、韓国戦よりも良いパフォーマンスが期待できる」。そして、「泣いても笑っても最後の試合という思いがあるでしょうから、昨日よりも笑顔あふれる、やりきった、と言えるような試合にしてくれるはずです」。
東大式、今日は1人…
女子のLS北見や、男子のSC軽井沢クラブを知り尽くす「チーム東京」のメンバーによる「東大式 すべらないカーリング観戦術」。日本女子がメダルをかけて臨む今夜の3位決定戦、日本―英国戦のライブ解説で最終回を迎える。
ところが……。いつもは3人に解説をお願いしているが、スキップ神田順平(33)とリード橋本祥太朗(30)は今夜、長野・軽井沢のカーリング場に向かった。「メダル獲得の瞬間にぜひ立ち会いたかったのですが、仕事が忙しくて週末にしか練習ができないので……」。本気で2022年北京冬季五輪出場を狙っているから仕方ない。
そんなわけで、今夜はチーム創設メンバーでもある岩永直樹が一人でお送りいたします。(構成・平井隆介)