木登りをする「森のわらべ多治見園」の園児=岐阜県多治見市笠原町
山や川などでの自然体験を重視した保育・幼児教育「森のようちえん」が全国に広がっている。形は様々で、園舎を持たずに野外で過ごす自主保育グループも。都会で高まる「自然保育」への関心を、移住者の呼び込みにつなげている自治体もある。
1月の平日朝、岐阜県多治見市にある森林内の公園。「自然育児 森のわらべ多治見園」の園児20人は保護者が見送る中、スタッフ6人と列を作って森の中へ歩いていった。
出欠確認といった「朝の会」は森の中で。奥へ歩きつつ、休憩を兼ねて自由に遊ぶ。昼食は弁当。小雨の中、絵本の読み聞かせなどをする「帰りの会」を終えた午後2時すぎ、保護者が迎えに来た。
この日、保護者当番として1日付き添った小玉阿紀さん(45)は長男岳ちゃん(6)を通わせる。入園前には一般の幼稚園も見学したが、「たくさん自然の中で遊んで学んで、子どもらしい時間を過ごさせたかった」と選んだ。
同園は2009年に自主保育グループとして発足し、週4日、森で遊んだりキャンプ場で料理をしたり。園舎はないが、よほどの悪天候以外は休みにしない。最近は毎年約20人の定員を超える入園希望者がいる。保育士でもある浅井智子園長(49)は「森で遊ぶことで『想像力』も『創造力』も体力もつく」と語る。
森のようちえんは北欧発祥で、1980年代に日本に入ってきた。NPO法人「森のようちえん全国ネットワーク連盟」(東京)は「自然体験活動を基軸にした子育て・保育、乳児・幼少期教育」と定義。多治見園のような園舎を持たないタイプから、週の1、2日を野外活動にあてる認可幼稚園・保育園、月に数度活動する任意団体もある。
連盟の加盟会員は任意団体として発足した08年の68団体・個人から、昨年末には307に。担当者は「幼児教育への価値観やニーズが多様化し、一般の幼稚園や保育園では満足できないという親が特に都市部で増えた」と話す。
広島文教女子大の杉山浩之教授(幼児教育学)は幼児期の自然体験について、「体力や免疫力がつき、好奇心や探究心を養える効果がある」と話す。ただ、「森のようちえん」には資金面の課題を抱える団体も多く、「広げるには行政の支援が欠かせない」と話す。
自治体も動き始めている。長野、鳥取、広島の3県は、森のようちえんの認証・認定制度を設けた。安全管理や指導者確保といった要件を満たせば、運営費や人件費などを補助している。
鳥取県は、同県智頭町の森のようちえんから提案を受け、15年度に認証制度を導入した。智頭町の森のようちえんは、園児の半数以上が県外からの移住家庭の子どもで、ここに通わせるために移住した家庭も多いという。支援を受けたい園側と、人口減少に悩む県のねらいが合致した。同年度に制度をつくった長野県では、自然保育に携わりたいという保育士の移住例もあるという。
鳥取県の担当者は「東京や大阪での移住イベントで問い合わせが多い。行政の『お墨付き』が自然保育のために移住する親の安心感につながっている」と指摘する。
三重県は17年度、「野外体験保育」として、希望する幼稚園・保育園に実践者をアドバイザーとして派遣したり、実施している園の保育の様子を公開したりした。岐阜県は、野外保育の指導者向け研修会の開催や、活動場所としての森林整備もしている。担当者は「安心して自然保育に取り組める環境や場所を提供することで支援したい」と話している。(山岸玲)