日銀の黒田東彦総裁
日本銀行は9日の金融政策決定会合で政策の「現状維持」を決めた。4月8日に5年の任期が満了する黒田東彦(はるひこ)総裁は、任期中最後の会合を終えた。政府はすでに黒田総裁の再任案を国会に提示。再任はほぼ確実で、異次元の金融緩和が当面続くが、「次の5年」はこれまで以上に険しい道のりとなる。
「再任された場合、2%の物価目標の実現への総仕上げを果たすべく、全力で取り組んでいく覚悟だ」。黒田総裁は2日、衆院議院運営委員会での所信聴取で、大規模な金融緩和を続けてデフレ脱却をめざす考えを強調した。
年明け早々、安倍政権幹部は日銀総裁人事について「いま経済はうまく回っている。(黒田総裁を)交代させる理由が見あたらない」と語った。「うまく回る経済」とは、1ドル=110円前後の円安で推移する円相場と、それに下支えされた株価上昇、恩恵を受けた好調な企業業績だ。
2012年末の第2次安倍政権発足直後、経済再生に向けて放たれた「3本の矢」。際立つのは1本目の異次元金融緩和だ。アベノミクスはクロダノミクスと揶揄(やゆ)もされる。その象徴の黒田総裁を代えることは政権基盤を不安定化させるリスクになりかねない。
安倍晋三首相の経済ブレーン、米エール大名誉教授の浜田宏一氏は昨秋以降、首相と面談。経済政策をテニスの試合にたとえ、「こっちの戦略が奏功しているうちは戦法を変えなくてよい」と進言した。総裁の人選は政権主導で進められ、「意見を述べる機会はなかった」(日銀幹部)。結局、麻生太郎財務相と菅義偉官房長官からの信頼も厚い黒田氏の続投でレールが敷かれた。日銀総裁は、黒田氏の前任の白川方明(まさあき)氏までの3代は日銀出身者が続いた。緩和を求める政権と慎重な日銀が意見を異にする場面もあった。しかし13年に財務省財務官出身の黒田氏が就任した後は、政権との「蜜月」が目立つ。
リーマン・ショック後の経済危機の後遺症が癒え、米国や欧州の中央銀行の政策は転換点を迎えている。米欧の中央銀行は金融緩和を縮小する「出口」へ向けた動きを進める。一方日銀は、物価目標の2%を達成できず、大規模金融緩和を今なお続ける。
今回の人事から読み取れる政権の意向は「日銀に簡単に出口に向かわせない」というものだ。19年10月に予定される消費増税後の景気下支えを日銀の緩和に期待するとの見方も根強い。政権は2人の副総裁候補のうち1人に、緩和拡大を唱えるリフレ派学者である若田部昌澄(まさずみ)氏を据えた。政権幹部は「市場参加者は『出口、出口』と騒ぐが、そんな段階にない」と話す。
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