かつて海だった場所に、いまは平らな白い砂地が広がる。未舗装の道でヘルメットをかぶった作業員たちがれんがを積み、地面をならしていた。
インド南端から南西に約600キロ、世界的なリゾート地で知られるモルディブを、2月に訪ねた。首都マレの北東、フェリーで約15分のところにある人工島「フルマーレ」の拡張工事が進んでいる。
島の広さを2倍にし、2050年ごろまでに集合住宅や商業施設を整備して、最大24万人が住めるようにする大プロジェクトだ。マレの現人口の2倍近く、国全体の約3分の2にあたる。念頭にあるのは、地球温暖化による海面上昇で、移住を迫られる人たちが出てくることだ。
もともとは過密化したマレからの移住地としてつくられた。1997年からの第1期工事は7年で終え、いま約4万人がくらす。
第2期にあたる拡張工事が始まったのは3年前。埋め立ては終わり、まず約7千戸分の集合住宅づくりが進む。「下水と上水は終わった。あとは電気だが、今年中に基礎の部分は終わるだろう」と開発を担う国営企業の担当者は言う。
海抜1メートルのマレに対し、フルマーレは2メートルと高くした。約1200の島からなる国土の8割が海抜1メートル未満。国連の「気候変動に関する政府間パネル」の報告書によると、温暖化が最も進んだ場合、50年ごろには世界平均で30センチ前後の海面上昇が予測されている。
モルディブでは08年ごろ、観光収入でほかの国に土地を買い、移住することも検討したが、その後、とりやめた。トーリク・イブラヒム環境エネルギー相は話す。「海面上昇はいくつかの島を消すかもしれない。だからこそ、移住を望む人たちを受け入れる人工島をつくっている。私たちはこの国にとどまって気候変動と闘う」
■止まらぬ浸食、井戸水に…