畳の補修をする松本秀夫さん。自宅はすでに解体し、中古の一軒家を購入した隣の南相馬市から通う=28日、福島県浪江町、福留庸友撮影
東京電力福島第一原発事故による避難指示が、帰還困難区域を除く福島県浪江町など4町村で解除されて31日で1年。商売を再開した店主たちの現状を追った。
浪江町内で唯一の畳店の店主の松本秀夫さん(71)は、「震災前よりよっぽど忙しい」と苦笑いする。町によると、町内には震災前、約2万1500人が住んでいたが、2月末現在は516人。避難先から自宅に戻ろうとする住民らからの依頼が絶えず、「この1年、休む暇がなかった」。
避難指示の解除前は、「年も年だしもうやめよう」と思い、隣の南相馬市に中古の一軒家を購入した。だが、帰還を考える住民や業者から100件以上の問い合わせを受け、昨年1月に店を再開した。
「若い人にとっては仕事は少ないし戻ってくる環境にはない」うえに、いずれ需要もなくなるだろうが、「商売はなるようにしかならない」と腹をくくっている。
同じように町内唯一の理容室「ヘアーカット髪優(かみゆう)」を営む吉田ミサ子さん(69)は、避難指示解除から約2カ月後に店を再開した。
当初は誰も来ない日も珍しくなかったが、人がいないのは織り込み済みだった。「自分の出来る仕事はこれしかない。何もしないよりは楽しみながら、少しでも役に立てたら」。近頃は、町に戻った住民が新たな常連客となり、1日に4人予約が入る日もある。週4日の営業を4月からは1日増やそうと考えている。
町によると、現在町内で営業しているのは91事業所。建設関係が約3割で一番多く、飲食関連が約1割だ。この1年で40事業所ほど増えた。(福留庸友)