オーストラリアで開催中の巨大現代美術展「第21回シドニー・ビエンナーレ」は、「世界の縮図」を目指し、社会派から抽象芸術まで多様な表現を包み込むように展開されている。芸術監督の片岡真実氏が選んだ69作家約300点の中から、注目作をキーワードごとにまとめて紹介すると――。
片岡真実・芸術監督に聞くシドニー・ビエンナーレの魅力
まず、スケールの大きいところで「宇宙」に触れた作品から。エイヤ=リーサ・アハティラ(フィンランド)は、宇宙空間を普段着のまま漂う女性の新作映像を展示している。まるで羊水に浮かぶようでもあり、シャツの胸には「LOVE」の文字。生命や宇宙への愛への言及なのだろう。N・S・ハルシャ(インド)の作品は、日用品の紙の箱を使って消費社会を批評しているが、一方で箱の中には闇=宇宙があるという発想で、星空の描写もある。
風変わりなのが、スバイ・サレス(カンボジア)の映像作品。観光地化したアンコールワットの大きさを、米袋を繕う針の長さを基準に測り続ける姿をとらえている。自らの体を使い、現代社会や地球、さらには宇宙までも測ろうとするかのように映る。
次に「音」。サムソン・ヤン(香港)の作品は、熱演するオーケストラの映像なのだが、聞こえてくるのは摩擦音や動作の音のみ。弦にテープを巻くなど、本来の音が出ないようになっているのだ。音と映像のギャップを扱いつつ、現代社会の不能感も漂う。
スザンヌ・レイシー(米)は輪になって伝統音楽を歌う人々の神聖な姿を通して、民族の問題などを考えさせる。これに対し、マルコ・フシナト(豪)は、参加者が音を出す。巨大な白い壁に向かって、野球のバットをたたき付けるのだ。響く轟音(ごうおん)。本人は怒りなどを発散させたつもりでも、その怒りが音を介して拡散する矛盾を突くようにも思える。
今展の顔ともいえる艾未未(アイウェイウェイ)(中国)が巨大な難民ボートを展示したように、「民族」を扱う作家も多い。ティファニー・チュン(ベトナム)は香港にいる元ベトナム難民の現在の暮らしを水彩画で描き出した。
豪先住民族出身のマーレン・ギ…