かこさとし(加古里子)さん=2月28日、神奈川県藤沢市、見市紀世子撮影
2日に92歳で亡くなった絵本作家のかこさとしさんは最晩年まで、創作に意欲を燃やしていた。背景には、戦争への反省と平和への願い、将来を担う子どもたちへの思いがあった。
特集:かこさとし(加古里子)さん
2月末、かこさんが小学校を卒業する時に描いた絵日記が出版されると聞き、神奈川県藤沢市の自宅を訪ねた。緑内障を患い、体力も落ちたと話していたが、休憩を挟みながら1時間余り、当時の思い出を振り返った。
福井や東京で過ごした幼少期のことを、昨日のことのように覚えていた。小学6年生のころの絵日記を「幼稚で恥ずかしい」と謙遜しながら、「私の子ども時代はずっと戦争でした。繰り返してはいけない」と力強く語った。
一段と言葉に熱がこもったのは、未来の子どもたちへの思いを聞いた時だった。敗戦時に19歳だったかこさんは、「手のひらを返すように『おれは戦争に反対だった』と話す当時の大人に愛想が尽きた」という。こうした思いから、戦後、企業で働きながら生活に苦しむ人々を支える運動に参加し、子ども会活動に尽力した。「子どもといえども、一人ひとりが個性や感性を持っている」と教わったという。
創作意欲は衰えず、1月に3冊新刊絵本を出版。「今も新作の構想がある」と語り、「時間がなくて」と繰り返した。「子どもたちは未来を築く」と語ったかこさんは、数多くの作品を世に送り出した。通底するのは、子どもたちの個性や感性への敬意だったと感じる。(見市紀世子)