ナットを削って磨き、美しく仕上げられた指輪作品
工作部品のステンレス製ナットを削って磨き、美しい指輪に仕立てる。全国唯一の職人といわれる岡山県倉敷市大畠1丁目のカワベマサヒロさん(41)が、地元の鷲羽山ビジターセンターで作品展を開いている。瀬戸内の文化交流を表した構成とし、建設時から見続けてきた瀬戸大橋の開通30年に彩りを添えたいという。
瀬戸大橋を見下ろせる鷲羽山のふもとに広がる海沿いのまちに生まれ育ち、現在も祖母から譲り受けた「工房」を構える。20代初め、水島地区で機械整備士をしていた。年配の同僚たちが指にしていた、ナットで自作した指輪に目が留まった。美しさと武骨さに引かれ、23歳で職人になった。
鉄のやすりでゴリゴリと表面を削り、紙やすりで磨き上げる。来る日も来る日も繰り返して作品を生み出す。磨くほどに輝きが増し、腐食しにくい。貴金属ではないので材料費はわずか。口コミやインターネットで評判が広がり、直接工房に足を運んで注文する客も少なくない。
小中学校の校舎窓から瀬戸内海を見て育ち、瀬戸大橋は建設中から見守った。橋げたが四国側から近づいてくる姿が記憶に残る。作品のヒントを求め、今でも鷲羽山の頂へと自然と足が向く。「見たり感じたりしたことがデザインの基になる。ここは自分のパワースポット」。ふるさとから授かる力が創作に結びつく。
作品展では最近5年間で作った約40点を、瀬戸大橋に見立てた配置などで披露する。四国在住の芸術家仲間も協力。指輪を置く台座は木工作家の土井桂一さん=高松市=がナット形に仕立てた。カメラマンの吉田真也さん=松山市=は、カワベさんの工房での姿を写真で紹介する。
開通30年の祝福ムードの一方、地元は空き家が増え続け高齢化も進む。自分の活動をふるさとの活性化に結びつけたいとも考える。「若いころは指輪を作ることばかりを考えていたが、続けられるのは理解してくれる人たちと地域のおかげ。これからは自分の活動を地域のエッセンスとして役立てたい」
会場は鷲羽山第2展望台から徒歩約8分。31日までの午前9時~午後5時。無料。問い合わせはカワベさん(090・9504・2376)。(小沢邦男)