サンドニ市中心部では荒廃マンションの建て替えが進む。左の建物は昨秋完成した低所得者向け住宅=2月、吉田美智子撮影
負動産時代
マンションの老朽化が進んでいるのに、オーナーたちの同意を得られずに修繕も取り壊しもままならない――。そんな「負動産マンション」が日本の都市郊外などで目立ち始めている。フランスでは、行政が介入してマンションを建て替え、同時に住民の生活改善にも取り組む動きがあるという。パリ郊外のサンドニを記者が訪ねた。
シリーズ「負動産時代」
1998年のサッカー・ワールドカップ(W杯)決勝。ジダン選手の活躍で地元フランス代表チームがブラジルを下し、初優勝を飾ったスタジアム「スタッド・ド・フランス」がこのサンドニにある。2015年には、130人の死者を出したパリ同時多発テロの発生場所の一つになった。テロの実行犯が潜伏した街としても知られる。
栄光と苦難の歴史を併せ持つサンドニの市街地に足を踏み入れると、窓ガラスが割れるなど老朽化したマンションやアパートが立ち並んでいた。自治体の調査では、住宅の4割が「住居に適しない」と認定されている。
高度成長期には、パリに通勤する中産階級の労働者が住んでいたが、その後、住民が郊外の戸建てに移り住んだり、工場が閉鎖したりして、空室ができた。そこに外国人労働者や所得の低い人たちが住むようになった。
以前は荒廃マンションに不法移民らを住まわせ、多額の賃料をとるような悪質な「貧困ビジネス」が横行。防火施設の不備などが原因でたびたび火災が起き、死者も出たという。
そんなマンション群の一角に、6階建ての真新しいれんが造りの建物が見えた。昨年11月に完成したばかりの低所得者向け公営住宅だ。もともと荒廃したマンションが立っていたが、市が収用して解体し、跡地に公営住宅が建てられた。
住民の一人、警備員のマルコさん(26)に話を聞いた。2LDKに母、妹と3人で暮らしている。近くの賃貸マンションに住んでいたが、自治体によって解体されることになり、いまの公営住宅を紹介された。以前より部屋は広くなり、家賃は月額900ユーロ(約11万円)から400ユーロ(約5万円)に下がったという。「以前は覚醒剤の取引が行われるなど街のイメージも悪かったけど、いまはすっかり変わりました」と、マルコさんは笑顔をみせた。
市は2010年、この一帯を国…