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がんと闘う記者が見た党首討論 身内以外に届ける努力を

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党首討論で、立憲民主党の枝野幸男代表(左)の質問に答弁する安倍晋三首相(右)=30日午後3時9分、国会内、岩下毅撮影


がんになるのは望ましくないことだ。が、なった以上はできることに全力を尽くすしかない。


現実から出発するのは政治も同じ。野党が政府に実りある答弁を求めても、メリットがなければ政府は応じない。批判する先に何ができるか。野党が真剣に政権を狙う工夫をしたとき、政治に緊張感が生まれる。


党首討論前、野党第1党である立憲民主党の枝野幸男代表は「実のある議論にはなり得ない」と語っていた。目の前の安倍晋三首相を追及する場と考えれば、持ち時間の19分は確かに短い。ならばテレビやスマホで見守る国民に「将来の首相」を売り込む場としてどう生かすか、注目していた。たとえば北朝鮮外交は首相の得意分野とされがちだが、最近は批判もある。思い込みにとらわれない試みをと期待したものの、空振りに終わった。


コラムを書いていると、しばしば思い込みや言葉の分断を感じる。「『日本人に戦争をさせるのは簡単だ』と確信した“沈黙”の夜」と題した回で、安全保障法をめぐる朝日新聞の報道への違和感に触れると「政権を支持している」という反応があった。同じ回で「共謀罪」法に懸念を示していても敵味方に仕分けられ、片方に耳をふさがれる。これでは議論にならない。


敵を作れば手っ取り早く味方を作れる。だが、与野党そして報道機関が「身内」以外に言葉を届ける努力を重ねなければ、溝は広がるばかりだ。野党ならば政権に近づけない。


人の持ち時間には誰にも限りがある。議員には任期満了というもう一つの「寿命」も控えている。党首討論に限らず、機会を十分生かさないのは不真面目に思える。国民から預けられた権力を子どもたちや将来に恥じることなく使えたか。一日を終え、夜の静寂に向き合う時、振り返ってほしい。(野上祐)



〈野上祐記者の経歴〉 1972年生まれ。96年に朝日新聞に入り、仙台支局などを経て政治部に。2016年に膵臓(すいぞう)がんの手術をして闘病中。アエラドットにコラム「書かずに死ねるか」を連載している。



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