田口麗斗投手=横関一浩撮影
2013年夏。第95回全国高校野球選手権記念大会広島大会の決勝は延長引き分け再試合となった。広島新庄のエースだった田口麗斗(かずと)さん(22)は、瀬戸内を相手に2日間で計23回、299球を投げ抜いた。最後は1点に泣き、惜敗した。巨人の主力となったいま、あの激闘について尋ねた。
――決勝初戦の最大のピンチは延長十三回。無死三塁から満塁策をとった。重圧はなかったですか。
「相手打順は中軸でしたし、迫田守昭監督と『腹をくくろう』と話しました。制球力には自信があったので、むしろ開き直って投げることができました」
――1死後、続く打者のスクイズを防ぎました。
「7番打者で、簡単に打ってくるとは思いませんでした。球を離す直前に打者がバットの持ち手を変えるのが見えました。捕手を信じてとっさに外角に外し、ファウルにできた。あの1球は、なぜか打者の動きがゆっくりに見えて。集中していたんでしょうね」
――決勝初戦は15回で213球を投げ、19奪三振。翌日の休養日はどのように過ごしましたか。
「いつも通りです。キャッチボールをしたり、打撃練習をしたり。迫田監督からは『ノースロー』(投げないように)と言われたんですけど、僕は毎日ボールに触れたい性格。広島大会で投手は疲労も出ると思いますが、自分に合った休み方を事前に確立しておくことが大事だと思います」
――再試合は8回を3奪三振、86球。配球を変えたんですか。
「決勝初戦で、瀬戸内が早いカウントから振ってくる印象があった。守備にもリズムが生まれると思い、変化球を低めに集めてゴロを打たせようとしました」
――唯一の失点が八回。1死二塁で甘く入ったスライダーを右前に運ばれた。
「外角へ投げたつもりが真ん中にいってしまった。打たれた残像は今でも残っていますよ。当時も今も、僕はスライダーが生命線。大事なところで際どいコースに集められないと、1軍では勝てない。走者がいると、特に意識しますね」
――試合後、笑顔でした。その理由は。
「1、2年の広島大会で登板した時は、先輩の夏を終わらせてしまった申し訳なさで泣きました。でも、最後の夏は、あれだけ投げて『高校野球を楽しめた』と思えた。勝ちたかったですが、僕の野球人生はそこで終わりじゃない。悔いがあるからこそ、泣かなかった。あの思いを胸に、巨人で日本一になった時にうれし泣きしたいですね」
――投げ合った瀬戸内の山岡泰輔投手に対しては。
「彼だけがライバルなのではなく、『同級生の好投手の一人として負けられない』と思っていました」
――山岡投手もオリックスで活躍中で、交流戦での再戦もありえる。
「個人的には意識していませんが、みなさんが楽しみにしているのもわかります。広島新庄の同級生からも『今度は勝ってくれよ』と言われています。実現したら、同級生全員の思いを背負って投げたいですね」(聞き手・原田悠自)
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たぐち・かずと 広島市佐伯区出身。高校3年時の2013年にドラフト3位で指名され、巨人に入団。17年には13勝を挙げた。身長171センチ、体重85キロ。左投げ左打ち。