「終わった人」で定年を迎えた日の主人公(舘ひろし)((C)2018「終わった人」製作委員会)
「リング」や「仄暗(ほのぐら)い水の底から」などの作品で、観客を散々震え上がらせてきた「ジャパニーズホラー」の旗手、中田秀夫監督が心温まる喜劇を撮った。9日から公開される「終わった人」がそれだ。実は元々、コメディーとメロドラマが大好物だったといい、笑いあり涙ありの夫婦の物語に仕上がっている。
「定年って生前葬だな」――。原作となった内館牧子さんの同名小説は、こんな書き出しで始まる。主人公の田代壮介(舘ひろし)は、東大卒で大手銀行の出世街道まっしぐらのエリートだったが、50代を目前にして子会社に出向、そのまま定年を迎えた。
第二の人生、何をすればいいのか。まるで思いつかない。悪あがきの末、新たな仕事と道ならぬ恋で生きがいを取り戻したかと思いきや、とんでもない災難が降りかかる。妻(黒木瞳)には離れて暮らす「卒婚」を切り出されてしまう。
そもそもの発端は中田監督が原作小説にほれこんだことだった。「タイトルでピンと来て手に取り、1行目でニヤッとさせられ、一気に読み切ると、いけるなと確信した」。即座に出版社に乗りこみ、映画化権を手に入れた。自ら企画書を製作会社へ持ちこんだのも、この作品が初めてだったという。
「終わったと言いながらも終われない主人公は、人間味にあふれていて、笑える要素がたっぷりある。しかし、最後は夫婦のしっとりとした愛情物語に収斂(しゅうれん)してゆく。僕の大好きなコメディーでもありメロドラマでもあるストーリーがイメージできたからなんです」
舘ひろしと仕事をするのも初めてだった。「定年を迎えた直後の主人公は、体形もだらしなく緩んでしまい、みっともないけれど、ふたたび働き始めると見違えるような二枚目になる。そんな変身を鮮やかにやってのけられるのは、舘さんしかいません」
「あぶない刑事(デカ)」のパロディーシーンも、さりげなく織りこまれている。お見逃しなく。(保科龍朗)