「拉致問題を置き去りにしたままの状況は受け入れられない」。時折メモをとりながら語った=角野貴之撮影
史上初の米朝首脳会談が12日に予定されている。昨年まで核やミサイルの実験を繰り返していた北朝鮮の急な態度の変化の背景には、何があるのか。非核化は進むのか。日本人拉致問題の一刻も早い解決に向けて、日本はどう対応していくべきか。昨年にもインタビューした拉致被害者の蓮池薫さんに、改めて話を聞いた。
はすいけ・かおる
1957年生まれ。中央大学生だった78年、郷里の新潟県柏崎市の海岸で拉致され、2002年帰国。専門は韓国語、朝鮮・韓国文化。
――昨年のインタビューで蓮池さんは「今は制裁、圧力の局面だが、必ず対話局面に転換するだろう」と予測していました。予測が当たりましたね。
「こんなに急に局面が変わるとは思っていませんでしたが、核開発と経済改革を同時に進めるとする北朝鮮の『並進路線』の行き詰まりは感じていました」
「発射実験を繰り返し、米大陸まで届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)がほぼ完成した。これまでの米国なら、すぐ話し合いに応じたかもしれません。しかしトランプ米大統領は昨年、『北朝鮮を完全に破壊する』と強い言葉で非難して制裁を強化し、ミサイル防衛に巨額の予算をつけた。北朝鮮は『核兵器が完成しても体制の安全は確保できず、経済の立て直しも難しい』と見越して、並進路線を見直して対話路線へ急速に切り替えたのでしょう」
――分岐点はどこにあったと思いますか。
「昨年11月の『火星15号』打ち上げで、金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長が『核武力は完成した』と宣言した。『完成したから、もうミサイルは撃たなくてもいい』と言うためのものだったと思います」
――年明けには平昌(ピョンチャン)五輪への参加を表明し、韓国と急速に接近しました。
「朴槿恵(パククネ)大統領が退陣し文在寅(ムンジェイン)大統領が就任したことが、北朝鮮には追い風になりました。文大統領は南北関係を改善し戦争を回避しようと、米朝の橋渡しをした」
――核ミサイルの脅威から、米国の先制攻撃に期待する空気も一部にあるようです。先制攻撃が拉致問題にプラスの影響をもたらす可能性はあるでしょうか。
「もし北朝鮮が一瞬で恐れをな…