シンガポール・セントーサ島のカペラホテルで12日に開かれた米朝首脳会談を終え、手を振るトランプ米大統領(右)と、会場を後にする北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長=ロイター
北朝鮮の非核化をどのように、いつまでに成し遂げるのか。今回の首脳会談で最大の懸案だった問題は、北朝鮮の主張を米国がほぼ丸のみした形となった。
米国のポンペオ国務長官は「完全で検証可能、不可逆的な非核化(CVID)が受け入れられる唯一の結果だ」と主張していた。事前協議でも直前まで、米国はCVIDを強く訴えた。これに対し北朝鮮は「米国も体制保証に関する具体的な期限や方法を示すべきだ」などと抵抗していた。
しかし、12日の共同声明は「朝鮮半島の完全な非核化」との表現にとどまった。正恩氏が5月9日にポンペオ氏と会談した際、「余すところなく非核化する」と語ったのと比べて進展があったとはいえず、結局、北朝鮮が押し切った格好だ。
12日の記者会見でトランプ氏は「検証可能と不可逆的という言葉がなくなった。妥協したのか」との質問に、「まったく妥協していない」と言い張った。
北朝鮮の非核化の進み具合をどう検証するのかと問われても、トランプ氏は「議論した。検証されるだろう。信頼が構築されれば、多くの人が現地に行って一緒に作業する」と漠然と答えるだけだった。
北朝鮮は12~60個の核兵器や、300~400カ所の核関連施設を持つとされる。専門家らは、たとえ合意文書にCVIDが盛り込まれても、全容の解明には相当な困難が伴うとみていた。今回のあいまいな合意では、北朝鮮の非核化に向けた道筋を描くことはかなり難しいといえる。
非核化を実現させる期限や工程表なども、声明にはまったく盛り込まれなかった。トランプ氏は会見で、「私は科学的な資料を多く読んだ。完全な非核化を行うには長い時間がかかる。一定の時間は待つ必要がある」と述べ、非核化の方法について具体的に触れることはなかった。
非核化の範囲を北朝鮮とせず「朝鮮半島」としたことで、北朝鮮が一方的に非核化しなくてもいい理由となる恐れもある。トランプ氏は、非核化の費用を日韓両政府に負担させる考えも改めて強調した。
トランプ氏は会見で、「金正恩氏は、非核化の意思をとても強く持っている。なぜなら、とても明るい北朝鮮の未来を望んでいるからだ」と自分に言い聞かせるように言った。金正恩氏を信じているのか、と問われると、こう答えた。「信じている。信じている」(土佐茂生)
急ぐトランプ氏、2人の「持ち時間」に差
朝鮮戦争の休戦から65年という歳月を経て、米朝両首脳が新たな関係の構築を宣言した。
第2次世界大戦後の冷戦下で、初の「熱戦」となった朝鮮戦争は、欧州の東西対立を世界に広げ、米中対立の構図を生み出した。冷戦の残滓(ざんし)といえるこの対立に終止符を打てるとしたら、この会談は歴史の転換点として記憶される。
だが、言動の振れ幅が尋常でな…