東京高裁の決定を前に、弁護士会館へ入る袴田巌さんの姉・秀子さん(右)=2018年6月11日午前11時44分、東京・霞が関、林紗記撮影
1966年に静岡県清水市(現・静岡市)で一家4人が殺害された事件で死刑が確定した元プロボクサーの袴田巌さん(82)=浜松市=について、東京高裁(大島隆明裁判長)は11日、再審請求を認めない決定をした。静岡地裁は2014年3月に再審開始を決定していたが、高裁は取り消した。弁護側は高裁決定を不服として、最高裁に特別抗告する方針。
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静岡地裁決定は袴田さんの釈放も認めていた。高裁は「年齢や生活状況、健康状態などに照らすと、再審請求棄却の確定前に取り消すことは相当であるとまでは言い難い」として、死刑と拘置の執行停止は取り消さなかった。
被害者らが経営に携わっていたみそ工場の従業員だった袴田さんは裁判で一貫して無罪を主張したが、1980年に最高裁で死刑が確定。確定判決は、事件の1年2カ月後に工場内のみそタンクから発見された、血痕がついた5点の衣類を「犯行時の着衣」と認定した。再審請求では、この衣類の血痕のDNA型鑑定が最大の争点になっていた。
地裁決定は、衣類のうちのシャツの血痕から袴田さんとは異なるDNA型を検出したという本田克也・筑波大教授の鑑定結果の信用性を認め、「衣類は袴田さんのものでも、犯行時の着衣でもなく、事件から相当期間がたった後、みそ漬けにされた可能性がある」と判断。「捜査機関が証拠を捏造(ねつぞう)した疑いがある」とも指摘し、再審開始とあわせて死刑の執行停止と、袴田さんの釈放を認めた。
これに対して、検察側は不服として東京高裁に即時抗告。本田教授の鑑定が「独自の手法で信用できない」と主張してきた。高裁では、検察側の請求で鈴木広一・大阪医大教授による検証実験が行われるなど、審理に4年以上が費やされてきた。
死刑囚の再審請求が一度認められた後に取り消された例としては、61年に発生した名張毒ブドウ酒事件がある。この事件では2005年に名古屋高裁が再審を認めたが、翌年に同高裁の別の部が取り消した。再審請求をめぐる争いはその後も続き、事件を起こしたとして死刑が確定した奥西勝元死刑囚は15年に89歳で病死した。
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袴田さんはこの日は弁護団と一緒に高裁に行かず、浜松市で過ごした。(杉浦幹治)