カメラつきスマートフォンに押され、デジタルカメラのメーカーはどこも青息吐息です。カシオ計算機は今春、消費者向けからの撤退を発表しました。一方で、オリンパスはデジカメ事業にこだわり続けています。その真意は。笹宏行社長(62)に聞きました。
――デジカメが大半を占める映像事業は、売上高がピーク時の8割以下です。
「これまで転げ落ちていたのが、いまは安定域に入りつつある。フィルムの一眼レフを使っていたような愛好家の需要は消えない。コンパクト型の市場はまだ縮み続けているけれども、ミラーレス型は伸びている。大きな成長は期待できなくても利益は出していける。撤退の必要はない」
――ただ、2018年3月期は営業赤字。19年3月期も赤字の見込みです。
「もともと計画していた赤字だ。事業規模が縮んだのに、二つの工場があるのは効率が悪い。だから、中国・深セン工場での生産をやめてベトナム工場に集約する。その費用が生じたからだ。集約後は、いまの4~5%の世界シェアを維持していれば、黒字を確保できる体制になる」
――競合メーカーも新製品を投入していて、シェアを保つのも大変です。
「ミラーレスは小型・軽量で持ち運びやすく、屋外の動物や景色の撮影に向くモデルを出す。コンパクトも、耐久性を高めた『タフ』シリーズが好評で、販売を続けるつもりだ。他社との違いを示せる製品を出し、利用者を囲いこむ」
――深セン工場では、現地で贈賄疑惑も浮上しました。撤退で幕引きを図ったのでは。
「違う。工場の操業を止めるのは大変なことだ。つまらない疑惑を隠すためにそんなことをするなんて考えられない。疑惑はだれが白黒をつけるのかというと、会社ではない。司法当局が判断すべきものだ。うちは社外取締役らによる調査の結果も当局に報告しているが、おとがめは受けていない」
――売上高の8割は医療機器事業で稼いでいます。1割にも満たないデジカメになぜこだわるのですか。
「わが社の歴史をひもとけばわかる。デジタル技術の開発はカメラから始まった。ここで確立した技術を医療用の内視鏡や顕微鏡に転用してきた。カメラが技術開発を動かす。うちはそういう会社だ」
――製造業では、不振の事業を分社して同業他社と提携し、開発費を出し合う手法も広がっています。
「投資家からも促されるが、カメラはうちの中核技術だ。ものづくりの会社として、それを社外に出すなんてありえない」
――技術の転用は、今後も続くのでしょうか。
「そうだ。4Kや8Kといった高精細の映像やワイヤレスの技術は、医療機器よりデジカメのほうが先に進んでいる。カメラは売れ筋の移り変わりも早い。そのプレッシャーのなかで技術開発をすることで、(医療機器などでも)技術面で先端にいられると思う」(聞き手・内藤尚志)