認知症の治療に日本でも使われている4種類の薬が、フランスで8月から医療保険の適用対象から外されることになった。副作用の割に効果が高くなく、薬の有用性が不十分だと当局が判断した。日本で適用対象から外される動きはないが、効果の限界を指摘する声は国内でもあり、論議を呼びそうだ。
仏連帯・保健省の発表によると、対象はドネペジル(日本での商品名アリセプト)、ガランタミン(同レミニール)、リバスチグミン(同イクセロン、リバスタッチ)、メマンチン(同メマリー)。アルツハイマー型認知症の治療薬として、これまで薬剤費の15%が保険で支払われていたが、8月からは全額が自己負担になる。
東京大の五十嵐中(あたる)特任准教授(医薬政策学)によると、フランスは薬の有用性に応じて価格や保険で支払われる割合を随時見直している。今回の薬は7年前にも専門機関から「薬を使わない場合と比べた有用性が低い」との評価を受け、保険で支払われる割合が引き下げられた。機関は2016年にさらに低い「不十分」と評価し、今回の決定につながった。
4種類の抗認知症薬は病気の症状が進むのを抑えるが、病気自体はくい止められない。効果は各国で実施された臨床研究で科学的に確認されている。とはいえ薬から得られる恩恵は「控えめ」(米精神医学会のガイドライン)だ。また、下痢や吐き気、めまいといった副作用がある。
日本でアリセプトに続いて実施された3種類の薬の治験では、認知機能の指標では効果があったものの、日常生活動作を含む指標では効果が確認されなかった。それでも承認されたのは、アリセプトだけでは薬の選択肢が限られるなどの理由からだ。
東京都医学総合研究所の奥村泰之主席研究員らの調査では、日本では15年4月~16年3月にかけて、85歳以上の高齢者の17%が抗認知症薬の処方を受けた。処方された量はオーストラリアと比べ、少なくとも5倍多いという。
兵庫県立ひょうごこころの医療センターの小田陽彦(はるひこ)・認知症疾患医療センター長は「欧米はケアやリハビリをより重視する。日本では安易に抗認知症薬が使われている印象だ」と話す。
ただ、薬を自己判断でやめると症状が悪化する恐れがある。日本老年精神医学会理事長の新井平伊(へいい)・順天堂大教授は「抗認知症薬は病気の進行を1年ほど遅らせることができ、薬がなかった以前と比べればそれなりの価値はある。薬をどう使うかは主治医とよく相談してほしい」という。(水戸部六美、編集委員・田村建二)