「終活」を考える
自分が認知症になったときに誰が支援してくれるかが心配です。どんな制度があり、今のうちにどんな準備ができるのでしょうか。
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認知症になった人の配偶者や子どもは、どのようにして支援していけばいいのでしょうか。例にそってみていきましょう。
千葉県のある市に住む80代の男性Aさんは、妻と長女の家族と暮らしています。最近Aさんは認知症と診断されました。施設に入所するには資金が必要で、Aさんの定期預金を解約しなければなりません。本人が解約できないならば、成年後見制度を利用し、後見人をつけて行ってもらわなければならない、と施設に言われたのです。
そこで、申し立てに必要な書類(住民票や戸籍謄本、医師の診断書、財産目録及び収支状況報告書など)をそろえ、住んでいる市を管轄する家庭裁判所に申し立てました。申し立ては配偶者や4親等内の親族などが行えます。
こうして、成年後見人に長女が選ばれました。定期預金は長女が解約し、施設への入所資金に充てました。
また、裁判所は他に専門家のBさんを、後見人を監督する「成年後見監督人」として選任しました。
成年後見制度は、判断能力が乏しくなった人を保護するための制度です。Aさんは財産が多かったので、裁判所は制度の趣旨にのっとり、後見監督人も選んだのです。
報酬は裁判所が決めますが、大体月額2万~6万円程度。Aさんの親族は、想定していなかった新たな費用負担がかかることになりました。
今後、Aさんの財産は、後見人となった長女がしっかり管理する必要があります。収支や財産の状況をきちんとまとめておかなければなりません。それを後見監督人に定期的に報告します。
なお、Aさんのように財産が多い場合や、親族間に争いがある場合は、裁判所が親族以外の専門家を後見人に選ぶ場合もあります。
また、財産の処分では、居住用の不動産を売却する場合は、裁判所の許可がいるということにも注意が必要です。こうした制度について、家族全員がきちんと理解しておきましょう。
これまで説明したのは「法定後見」です。すでに認知症などで判断能力が乏しくなった場合に使われます。
一方、判断能力はあるが今後が不安な場合、事前に後見人をお願いしておくのが「任意後見」です。頼りになる身内がいない人が専門家と契約するケースが多いです。
任意後見人となる人と、事前に委任することや報酬を決めて、公正証書で契約を結んでおきます。実際の後見人としての仕事は、本人の判断能力が乏しくなった後に始まります。そのときは、任意後見人を監督する「任意後見監督人」を家庭裁判所が選任します。
後見に関して、任意後見人と監督人の2人分の報酬が必要になります。そのことも念頭に、任意後見人の報酬は決めておきます。
任意後見人は、法定後見の場合とは異なり、同意権や取り消し権がない点に注意が必要です。悪質な業者にだまされたとしても取り消せない、ということも知っておきましょう。=全10回(相続・終活コンサルタント 明石久美)