毎年恒例のAKB48の総選挙が先月16日、ナゴヤドーム(名古屋市)で開かれた。大西桃香(20)は「38位」と記されたトロフィーを手にうれし涙に暮れた。加入して5年目、ランクインは初めて。約3万人の観客を前に「皆さんのおかげで、最高の親孝行ができたんじゃないかなって思います」と感謝を述べた。
翌17日は父の日だった。
思春期のころから父とうまくいかなかった。トラック運転手の父は家を空けがちで、顔を見ると憎まれ口ばかり聞かされた。大島優子に憧れてオーディションに挑み、合格したときも「おまえでいいのか、ぶさいくやのに」とつれなかった。
2014年春、高校に通いながらアイドルとして活動し始めた。自宅がある奈良と東京を行き来し、さらに父とすれ違う日々が続いて半年。不意に別れが訪れた。数日前から体調が悪そうだった父が自宅で倒れ、逝ってしまった。44歳だった。ステージに立つ娘を一度も生で見ないまま。AKBに入って初めて迎えた誕生日、大勢のファンに祝福されるはずの14年9月20日が葬儀の日になった。
しばらく後、形見の携帯電話を渡された。保存されていた動画に、どこかの居酒屋か、店のテレビが映っていた。テレビには「AKBで頑張ります」と話す大西の姿。その画面を撮りながら、「めっちゃかわいいやん」とはしゃぐ父の声が収められていた。「速報 我が家に芸能人誕生」。喜々と文字が躍る友人あてのメールもあった。
「そんな言葉を聞いたのは初めてで、思いもよらなかったし、ものすごく後悔した。もっと話せばよかったって」。真意に触れて、幼いころの父との思い出がよみがえってきた。
特に、印象に残っているのは朱…