(21日、高校野球・甲子園決勝 大阪桐蔭13―2金足農)
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最後までマウンドを譲らなかった。13―2でリードした最終回、大阪桐蔭(北大阪)の柿木(かきぎ)蓮君(3年)が金足農(秋田)の打者に向かう。「最後は腕を振る」。144キロの直球。外野フライに仕留めると、右腕を突き上げた。
校歌を歌いながら、涙があふれた。やっと本物のエースになれた――。
今年4月。春の選抜大会決勝で大阪桐蔭が史上3校目の春連覇を飾った直後、喜ぶほかの選手たちとは対照的に柿木君は悔しそうだった。「ちょっとへこんでます。自分が投げられなかったんで」。エースナンバーの背番号1をつける。だが、完投したのは遊撃手と投手の「二刀流」で注目される根尾昂(あきら)君(3年)だった。
「仲間や監督から信頼される本物のエースになれていない」。柿木君を奮い立たせたのは、先輩から託された「エースの証し」だ。
大阪桐蔭では「1から次の1へ」とメッセージが書かれたボールが、引退するエースから新チームのエースへと引き継がれてきた。
始めたのは、2015年夏の大阪大会準々決勝で敗れたときのエース田中誠也さん(20)=立教大3年。「チームを勝たせられなかった悔しさを伝えたかった」。思いを書いたボールを後輩の高山優希さん(20)=日本ハム=に託し、その次は昨年のエース徳山壮磨さん(19)=早大1年=が受け取った。
昨夏は甲子園3回戦の仙台育英(宮城)戦で、九回2死まで1点リードしながら逆転サヨナラ負け。徳山さんがボールを渡したのは、その試合でマウンドを任された柿木君だった。徳山さんは「あの悔しさが柿木を成長させると思った」と振り返る。
田中さんが残したボールはメッセージでいっぱいで、徳山さんは新たなボールに言葉と激励を書き、二つの球を柿木君に渡した。
「うれしさと同時に責任を感じた」と柿木君。今大会では、試合前日に宿舎で目に焼き付け、気持ちを高めてきた。初戦を完投。1イニングをリリーフした2回戦は自己最速の151キロを記録した。3回戦は六回から救援し、5奪三振。準々決勝も継投した。
10奪三振で完投した準決勝の日の夜、柿木君は西谷浩一監督(48)の宿舎の部屋を訪れ、「決勝も投げさせてください」と志願した。「大事な試合はずっと根尾だった。エースとして自分が投げたかった」
そして勝ち取った深紅の大優勝旗。うれし涙のあと、柿木君は「ボールを託してくれた先輩たちに、『今日の投球はどうだったですか』って聞いてみたい」と晴れやかな笑顔を見せた。(遠藤隆史)