(21日、高校野球 大阪桐蔭13―2金足農)
六回。金足農の選手たちが守備位置へ散っていく。スタンドから拍手とどよめきが湧き起こった。
「正しい判断だな」。捕手の菊地亮太君(3年)はマウンドを見つめた。先発したエース吉田輝星(こうせい)君(3年)は、大阪桐蔭打線に序盤からつかまって五回までに12失点。この夏、秋田大会5試合、甲子園の準決勝まで5試合を1人で投げ抜いてきた背番号1は右翼へ回り、マウンドを譲った。
初めての継投。金足農は一度も選手交代せず、地元出身の3年生9人で勝ち抜いてきた。150キロの速球を一人で受けてきたのもまた、菊地君だった。
昨秋からバッテリーを組んだ。1年生の頃から評判が高かった吉田君の球を受けると、「体ごと、ぐっと押し込まれるような」球威に驚いた。そして、とにかく手が痛かった。ミットのひもが頻繁に切れた。
「球に目が追いつかない。捕らないとけがする」。捕手の菊地君がいかに成長するかがチームの命運を握った。マシンを2メートル近づけて140キロの球を捕るようにした。
特に捕球の技術を磨いた。ミットをぶらせば球審の心証が悪い。際どい球はぴたりと止める。実戦を重ね、吉田君の持ち味を発揮させるための捕り方を体にたたき込んだ。
一つでも多く三振を取ろうとするエースを冷静にさせる役目を担った。準決勝は投球数を減らすため、打たせて取る投球に変えた。吉田君は、「亮太のリードと捕球があってこそ。自分を作り出したのは亮太だと言っても過言じゃない。本当に感謝している」。
初めての決勝進出に導いた吉田君の力投。だが五回、大阪桐蔭の根尾昂君(3年)に直球をバックスクリーンまで運ばれた。吉田君は仲間に降板の意思を伝えた。
「代えてください」。主将の佐々木大夢(ひろむ)君(3年)は中泉一豊監督(45)へ告げた。「悔しいと思うけど吉田にはこの先も活躍してほしいから」。救援した三塁手の打川和輝君(3年)は「力を出し切ったんだな」と思った。日本一を目標に戦ってきた仲間で考えた決断だった。
今大会6試合で吉田君の投球数は881球。受け止め続けた菊地君は「吉田に助けられながら成長できた。野球を楽しめたな」。準優勝メダルを手にした「雑草軍団」は涙を流し、口をそろえて言った。「この9人だったから、ここまで来ることができた」(野城千穂、神野勇人)