台風21号が関西に爪痕を残して1週間。関西電力によると11日午後5時40分時点で和歌山や京都、大阪、奈良の4府県の山間部を中心に少なくとも約6千戸で停電。倒木などで道がふさがれて復旧が難航し、停電の影響で断水が続く地域もある。現地に記者が入った。
地震に台風…「予想以上の惨状」
11日朝、台風21号で全戸が断水している高槻市最北部の樫田地区に入った。普段はJR高槻駅から車で約40分。しかし市中心部と結ぶ道路は無数の倒木で通行できない。京都府亀岡市を回り、約1時間10分かけてたどり着いた。
樫田小学校に住民が列をつくり、市の給水車を待っていた。石河美代さん(62)はポリタンクを軽トラックに積んできた。地域にコンビニはなく、亀岡市内で買い物、洗濯、入浴している。「暮らしに水は欠かせない。出来合いのお総菜に炒め物ばかり。うどんや煮物を食べたいけれど、水を使った調理は無理。早く復旧して」と話した。
この日、市水道部は10トンの水を住民に配った。樫田地区は五つの集落からなり、238世帯423人が暮らす(3月末現在)。高齢化率は49・2%。車を運転できない住民も多く、市職員が戸別配布している。
断水は、停電で川から浄水場へ取水できなくなったのが主な原因で、復旧のめどは立っていない。市職員の案内で、浄水場近くの出灰(いずりは)集落に向かった。男性1人のほかは避難しているという。折れた電柱、垂れ下がった電線……。倒れたスギも道をふさぐ。市職員の八木孝文さん(39)は何度も腰をかがめ、6リットルの水が入ったポリ袋を抱えて集落へ進んだ。
高三(たかみ)武夫さん(78)、光子さん(76)夫妻は台風が通過した4日、市の施設に避難し、仕方なく1カ月契約で市中心部にアパートを借りた。この日は収穫期を迎えたブドウの様子を確かめに一時帰宅した。「アパートには鍋もフライパンもない。3食、コンビニ」と声を落とした。
学校への影響も深刻だ。樫田小には教職員13人と児童49人が通う。地域の児童は13人で、他は「自然の中で学ばせたい」などの理由で市街地からバスで通う。しかし断水でトイレは使えず、給食も作れない。市街地の児童は通学できない。地域の児童13人はマイクロバスで高速道路を経由し、市街地の小学校に間借りした教室に通う。樫田小の神宮司智子校長(58)は「往復2時間以上の通学は酷。一日も早くこの校舎で授業を受けさせたい」と話す。
現地を視察した浜田剛史市長は「予想以上の惨状。6月の地震に今回の台風。住民の負担は大きく、何とか平穏な暮らしを取り戻したい」と焦りを見せた。(室矢英樹)
倒れた木や電柱、復旧阻む
和歌山県の山間にある紀美野町の一部地域では、11日夕も約1400戸で停電が続いていた。倒れた木や電柱が復旧作業を阻む。
町は関電から借りた小型発電機を集会所などに設置し、町民が携帯電話の充電などに訪れる。同町美里支所や総合福祉センターのシャワールームも開放され、11日からは宿泊施設「美里の湯かじか荘」でも浴場が開放された。同施設の塚田晃次事務長は「住民の方々はストレスがたまっているはずなので、風呂につかって少しでも発散していただけたらと思う」。ただ、同施設も台風後は営業できないままだという。
同町田の岩尾新治さん(76)は、妻と2人暮らし。カップ麺やレトルト食品を食べ、夜はろうそくをともす。洗濯は手洗いだ。「電池などを車で買いに行ったが、どこも売れてしまって、なかなか見つけられなかった」。テレビも映らず、近所の人に教えてもらうまで北海道の地震も知らなかった。「1分1秒でも早く復旧してほしい」
関電によると、12日以降も4府県の計5830戸で停電が続く恐れがある。台風21号による停電は延べ約225万戸にのぼるが、電柱の変圧器の故障や各家庭への引き込み線の切断などによる停電は把握しきれていないという。担当者は「引き続き全力で復旧作業に努めたい」と話した。(下地達也)