遺品を保管する倉庫で重松清さんに説明する友心まごころサービスの岩橋ひろし社長=福岡県筑紫野市 [PR] あるとき突然、親の遺品と向き合うことになったら――。本紙連載小説「ひこばえ」で主人公は、家族と別れてひとり暮らしていた父の死を知らされ、亡き父の部屋を訪れる。作者の重松清さんが、ある遺品整理の現場を訪れた。 連載小説「ひこばえ」はこちら 玄関のドアを開ける。手をあわせて、室内に入る。 50代の男性がひとりで暮らしていたという福岡県内のマンションの一室。くつしたやシャツといった洗濯物はピンチハンガーにぶらさがったまま。リビングにあったズボンのポケットからは小銭がじゃらりと出てきた。台所のテーブルには、ポリ袋に入ったロールパンが残っていた。消費期限は1カ月前。親族から遺品整理の依頼を受けた「友心まごころサービス」の作業に同行した。
台所のテーブルには食べかけのバターロールが残されていた 本棚を見れば、椎名誠の懐かしい文庫が並んでいる。「同じような本や音楽を聴いていたんだろう」と重松さん。故人とは同世代。「ひとはいつ亡くなるかわからない。会ったことのない方の人生を、残されたものを通して見せてもらいました。無念さを感じます」 〈「ひこばえ」あらすじ〉 ある日、洋一郎のスマホが鳴った。珍しく姉からだ。幼い頃に別れたきりの父親が死んだ、という。両親が離婚したのは洋一郎が7歳のとき。それから一度も会っていない。父親は親戚中から嫌われ、遺骨の預かり先もないらしい。洋一郎は父が最後の日々を暮らしていた部屋を訪れた。 九州一帯で遺品整理を担う「友心まごころサービス」は、孤独死の現場の清掃から遺品の仕分けまで扱う。社長の岩橋ひろしさんを含めてスタッフ3人で部屋に入る。ソファの上にパーカが脱ぎ捨ててあったり、テーブルに飲みかけの薬が置いてあったり。大量に残されたものを、処分するもの、親族に見せるものに、それぞれ分けてゆく。親族に見せるものは段ボール2箱ほどに絞り、まとめてゆく。レシート1枚が亡くなる直前の生活を伝えることがある。写真1枚が遺族の知らなかった大切な人間関係を教えてくれる。何を遺族に残すかの判断は経験と思いが重要になるという。 岩橋さんによると、家族を亡くし、遺品を前にした人の多くが、どこから手を付けてよいのかわからず、ぼうぜんとするそうだ。「手がとまってしまうのは家族だから。その部屋にあるのは、故人がいつか使うと思って残しておいたもの。ものに思いが宿っている」と岩橋さんは言う。「長く離れていた両親の最近の生活ぶりがわかるものは残し、遺族に見せます」。同じ間取りの部屋でも、ひとつとして同じ遺品整理の現場はない。
リビングに雑然と置かれていた小銭。何のおつりだったのだろうか 「ものを通して人生が見える」と重松さんは話す。取材で訪れた東日本大震災の被災地の風景が浮かんだという。「ガレキというとガレキになるけれど、よく見れば三輪車だったり、焼酎の瓶が転がっていたり、そこには生活がある。コンクリート色ではなく、実際はカラフルだった。ゴミと言うか、遺品や形見と言うか。震災以降、ものと暮らしの見方は、自分のなかで変わりました」 「亡くなったという事実は変えられないけれど、僕たちにできることがある」と岩橋さんは言う。過去に扱ったケースでは、家族に迷惑をかけて死んだと思われていた故人の部屋から、家族への思いが切につづられた手紙が見つかり、遺族の亡き人への印象が変わったことがあったという。大量の現金が出てくることも。「故人の人生の終わり方が変わる。僕たちにできることがある」 部屋をあとにして、重松さんは、「死によって人生が終わるのではなく、通夜から葬儀、そして遺品整理がエピローグを作ってくれる。その余韻は大切ですね」と話した。
座布団、冷蔵庫、ソファ……大量の遺品を保管する倉庫で、岩橋ひろし社長に聞く重松清さん=福岡県筑紫野市 ◇ 〈連載小説「ひこばえ」あらすじ〉 ある日、洋一郎のスマホが鳴った。珍しく姉からだ。幼い頃に別れたきりの父親が死んだ、という。 両親が離婚したのは洋一郎が7歳のとき、大阪で「太陽の塔」が大人気だった。それから一度も会っていない。父親は洋一郎と同じ沿線のアパートにひとりで住んでいた。親戚中から嫌われ、遺骨の預かり先もないらしい。大家と連絡を取り合い、洋一郎は父が最後の日々を暮らしていた部屋を訪れた。 「ひこばえ」 掲載一覧ページはこちら |
ズボンに小銭、棚に椎名誠 遺品が語る50代男性の無念
新闻录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语
相关文章
版元の幻冬舎を文学賞贈呈式で批判 作家の葉真中顕さん
幻冬舎、社長の実売部数ツイート謝罪 公式サイトに公表
幻冬舎社長「ツイートを終了」 実売部数公表で反発招く
東洋英和前院長の著書、読売・吉野作造賞の授賞取り消し
エッセイストは思う 「憲法が語るのは、あなたのこと」
思考停止の日本、芽吹きに必要なものは 高村薫さん
直木賞作家・東山彰良さん 人生転機、空の上で考えた
キーンさんお別れの会に1500人「父の喜びの雨だと」
芥川賞候補「美しい顔」改稿し刊行へ 文献不明記に指摘
袴田巌さん巡る連載記事、手記と酷似 岩波書店が謝罪
NHK記者過労死、100人に聞いた経緯 なぜを求めて
川端康成文学賞が今年度の選考を休止 運営基金危うく
広告依存、困難なファッション批評 鈴木正文GQ編集長
金子兜太さん60年の日記 論敵を批判、自己反省の日々
津波で流されたサッカーボール、物語に 被災地に本寄贈
女性たちよ、地声で話そう 身体を描いてきた詩人が語る
「女性は怒っていいんだ」フェミニズム専門の出版社設立
平成の30冊、1位に1Q84「平成は村上春樹の時代」
伝説のキーンさん、別れ際「友達に!」 平野啓一郎さん
日本国籍取得時「日本を本当に愛している」キーンさん
歴史を作り替え、若者に… 村上春樹さん「とても危険」
亡き娘が見守る「百合文庫」 20年で読み聞かせ1千回
DAYS JAPAN最終号、発売延期 性暴力問題検証
スクショNG、影響は?ブログ・ツイッターにも違法の罠
苦しみ、我がこととして悶え 読み継がれゆく石牟礼道子














