北朝鮮の金正恩（キムジョンウン）朝鮮労働党委員長は１９日も、平壌を訪問中の韓国の文在寅（ムンジェイン）大統領を食事や歓迎行事で手厚くもてなした。韓国を抱き込んで国際的な制裁包囲網を崩そうとの思惑が透けて見える。

正恩氏、謙虚な対応「うちの宿所はお粗末でしょう」

韓国メディアの平壌共同取材団によると、１９日の会談後、正恩氏が昼食に文氏夫妻らを招いたのは、平壌冷麺の「玉流館（オンリュグァン）」。「みんな平壌に来ると冷麺、冷麺と言うんですよ」。正恩氏の妻の李雪主（リソルチュ）氏が笑顔を向けると、文氏の顔もほころんだ。冷麺のほかスッポンのスープ、マツタケの炒めなどが提供された。店内の壁には朝鮮半島の統一図が掲げられた。

迎賓館「木蘭館（モンラングァン）」で開いた１８日夜の歓迎夕食会でも、ニンジン酒や平壌焼酎、ワインなどのお酒に、七面鳥や刺し身、フカヒレのスープ、焼きマツタケといった食事が用意された。

正恩氏は「（４月の会談で合意した）板門店宣言の履行のため、民族繁栄の新しい歴史をつないでいこうという固い気持ちを抱き、平壌を訪問した大統領夫妻を熱烈に歓迎する」とあいさつ。文氏は「（平壌を訪問して）科学と経済を発展させ、住民の暮らしを良くしようとする金委員長の指導力と成果を知ることができた」と持ち上げた。

この夕食会に先立ち、平壌大劇場で行われた芸術公演では、観客席から「万歳」の連呼が数分間続いた。舞台の背景画面には、平昌五輪に出場した女子アイスホッケーの南北合同チームが映し出された。

正恩氏の歓待ぶりに気を良くする文氏は「金委員長と私には信頼と友情がある。乗り越えられない困難はない」と語る。１９日午後には、海外との取引が国連の制裁対象になっている銅像の製造企業「万寿台創作社」も訪問。韓国大統領府高官は１９日、「北朝鮮から要請されたのか」との韓国メディアの質問に「芸術品の観覧として行われる」とだけ説明した。

１９日の夕食は、市民が訪れる食堂に行きたいという文氏の希望で、新鮮な海産物を楽しめるという「大同江水産物食堂」に。「メーデー競技場」でマスゲームも行われた。

文氏は２０日には、中朝国境にある朝鮮半島の最高峰、白頭山（ペクトゥサン）に向かう。金日成（キムイルソン）主席の抗日パルチザン闘争の根拠地で金正日（キムジョンイル）総書記の生誕地とされ、北朝鮮では聖地と位置づけられる。（ソウル＝鈴木拓也）