(19日、大相撲秋場所11日目)
相撲特集:どすこいタイムズ
全勝の横綱を止めたのは、栃ノ心の規格外の怪力だった。
右差し狙いの立ち合いは失敗し、低く当たってきた鶴竜にスパッと両差しを許した。誰が見ても不利な体勢。ただ土俵中央で左、右と上手をつかむと気持ちが吹っ切れた。「もう出るしかないでしょ。出るしかない」。外四つで159キロをつり上げる。一度は残されたが、顔を真っ赤にして、もう一度、ありったけの力を出した。強引に持ち上げ、横綱を無力にしてから、寄り切った。
敗れた鶴竜は驚きを隠せない。「えっと思った。あそこからつられるとは思わなかった」。八角理事長(元横綱北勝海)は「何が何でも出るという気迫があった。(古傷の)ひざに負担がかかるから、冷静なら危なくてできない。鬼気迫るものだった」とみる。
たしかに、がむしゃらにやるしかない状況に追い込まれていた。名古屋場所は右足の親指を負傷して途中休場。今場所は大関2場所目にしてカド番で迎えた。初めて味わうプレッシャー。しかも4敗を喫して終盤を迎え、「緊張するよ」。不安を感じながらの土俵だった。
力業でもぎとった7勝目で視界は大きく開けた。「もう一丁だな」。久しぶりに笑みを見せながら気合を入れ直した。12日目は白鵬戦。カド番脱出をかけて、再び全勝の横綱に挑戦する。(岩佐友)