シャープの戴正呉(たいせいご)会長兼社長は9月27日、中国広東省深圳市で記者会見し、新しい液晶テレビのブランド「睿視(ロイシー)」を現地で投入すると発表した。親会社の鴻海精密工業(台湾)傘下での経営再建が進み、巨大な市場を抱える中国での展開に本腰を入れる。狙いは地方都市でも増える中間所得層だ。
「海外売上高を8割にすると言っている。世界2位の経済規模のある中国で事業拡大できなければ、苦しい」。戴氏はこの日の記者会見で、中国の重要性を強調した。
新ブランドの「睿視」は中国語で「賢いテレビ」という意味。中国で流行する出前サービスの注文や、買い物などのネットサービスを、音声認識でできる液晶テレビだ。今後は次世代の高解像度テレビ「8K」にも対応するなど、高級化路線を進めるという。
狙うのは、地方都市で増える30~40歳代の中間層だ。暮らしに余裕があり、「安さ」よりも「品質」を求める傾向があり、シャープも日本ブランドとして高い知名度を誇る。
戴氏が22日付でシャープの中国代表を兼任したことも発表した。これまで鴻海系の企業に家電の販売を頼ってきたが、安売りに傾きがちだった。今後は戴氏が主導してシャープ自ら販売網を築き、来年には、中国での家電販売全体で現在の2割増を目指すという。「本当のシャープの技術力を消費者に見せたい」(戴氏)と意気込む。
液晶で一時代を築いたシャープは、2000年代後半から激しくなった中韓メーカーとの価格競争に敗れて経営難に陥り、16年夏に鴻海傘下に入った。鴻海出身の戴氏がトップに就いてコスト削減などを進め、昨年12月には東京証券取引所1部に復帰した。
「2年ほどの改革で、やっと業績が安定的になった」(戴氏)いま、目標として掲げるのが海外事業の拡大だ。20年3月期までに海外売上高の比率を現状の7割強から8割に高める目標を持ち、今回の新ブランドの投入もその一環と位置づける。
一方、市場の伸びが期待できない国内では、生産体制の大幅な見直しを進めている。8月には、八尾工場(大阪府八尾市)で約60年間続けてきた冷蔵庫の生産を来年9月に打ち切り、タイの工場に移すと発表した。テレビを生産する栃木工場(栃木県矢板市)も縮小し、年内には液晶テレビの組み立てをマレーシアや中国の工場に移す方針だ。
今回の「睿視」のテレビに使う液晶パネルは、ほとんどのモデルで日本の堺工場(堺市)を使うが、海外シフトはまだ続きそうだ。戴氏は記者会見で「(生産が)自動化できる商品は日本で作る。それができるかどうかがキーポイントだ」と述べた。(福田直之=深セン、米谷陽一)