労働組合の中央組織・連合が、春闘で示す賃金体系を底上げするベースアップ(ベア)の引き上げ率目標を、将来的に前面に示さない方向で検討を始めることがわかった。今月中旬に決める来年の春闘方針となる「基本構想」の素案に、要求方法を転換する必要性を盛り込んだ。
関係者によると、連合執行部は2日の幹部会議で基本構想の素案を提示。従来は記載があるベアの引き上げ率目標がなかった。一方で「『春闘』の形を変革し、闘争の争点を賃金の『上げ幅』追求から働きの価値に見合った賃金『水準追求』へと転換をはかっていかなければならない」と強調。来年の春闘をその足がかりとするとした。
連合は傘下の産業別組織幹部とも議論し、今月中旬の中央執行委員会で基本構想を決める。関係者によると、2日の会議では「なぜ数字を出さないのか」と戸惑う意見が多く出た。執行部は基本構想の次の段階として詳細な春闘方針を示す「闘争方針」には、何らかの引き上げ率目標を入れると説明したという。来年の春闘では例年通り示される見通しだ。
これまで春闘では連合がベアの引き上げ率目標を示し、傘下の労組はそれを目安に経営側と交渉するのが通例だった。今年までの3年間は、連続して「2%程度を基準」とした。
連合の方針の見直し検討の背景に、トヨタ自動車の影響を指摘する関係者は多い。国内トップ企業として春闘相場をリードしてきた同社は2018年の春闘で、ベアの額を非公表にして波紋を呼んだ。19年以降の非公表も示唆しており、連合関係者は「トヨタの回答と連合の要求のずれに注目が集まる状況を避けたい事情がある」とみる。
一方、安倍政権は14年以降、経済界への賃上げ要請を続ける。18年の春闘では「3%以上」と初めて数値目標を掲げ、経団連もこれに応じた。政府主導の「官製春闘」が色濃くなる中で、実際に引き上げ率目標の提示をやめれば、春闘の旗振り役としての役割を問う声があがりそうだ。(滝沢卓、土屋亮)