ネオンきらめく夜の大阪・ミナミのバー。いつもは酒が並ぶカウンターに場違いなネタを並べ、黙々とすしを握る男性がいる。経営していたすし店が先月の台風21号により被災した南秀昌(ひであき)さん(31)。途方に暮れる日もあったが、街の人情に救われた。
飲食店が立ち並ぶ通りの一角にあるナイトバー「キングダム」(大阪市中央区)。やや薄暗い店内のカウンターの片隅に並んでいるのは、発泡スチロール製の箱に入ったマグロやハマチ、タコにイワシ。2貫で一番安いタマゴが200円、値段の張るウニで千円ほど。20種以上のネタを、客がじっと品定めする。
「わたし、ウニ」
注文が入ると、派手なドレスの女性店員の隣にいた南さんがネタを手に、素早くにぎる。会話に笑顔で相づちを打ちながら。マグロには塩、ブリにはわずかにしょうゆを含ませた大根おろしをのせる。「これまで食べたすしの中で一番おいしいと言われることもあるんです」という。
大阪市出身の南さんは高校卒業後にすし店で修業。開業資金をかせぐため25歳で辞め、3年間会社勤めやアルバイトをした。こうしてためた約1千万円を元手に2016年春、大阪市浪速区で「みなみ寿司(すし)」を開業。店先に椅子を並べる屋台スタイルで、従業員はおらず、客は最大6人とこぢんまりとしているが、「夢のスタート地点」と誇らしかった。29歳だった。
そこへ先月4日、台風21号が…