愛知県豊田市下山(しもやま)地区(旧下山村)の小さな山に地元、神殿(かんどの)町の住民たちが11月、ヤマザクラの苗木を植える。神社の修理費を賄うためにヒノキを伐採した跡地で、広さは5千平方メートル。過疎化が進む集落に、将来の桜の名所を作り、残そうという息の長い取り組みだ。
ヤマザクラを植えるのはふもとから高さ10メートルほどの小山で、頂上には神社「神明(しんめい)社」がある。市中心部から三河湖に通じる県道からよく見える。予定では、11月18日に神殿町の住民約20人が手分けをして北西側斜面に100本を植える。草刈りをし、肥料をやり続ければ3年ほどで花をつけ、20年もすれば花見を楽しめるぐらいに育つと見込んでいる。
神社近くには、かつてソメイヨシノの桜並木があった。戦前に植えられ、下山地区では知られた名所だった。だが豪雨で流されたり、枯れたりして2本を残すだけになっていた。そこで住民たちは代わりに5年ほどかけて県道沿いに約150本のコヒガンザクラを植えた。
新たな植樹の場所に、と考えたのが神社の立つ山だった。ちょうど、1887(明治20)年に建てられた建物の修理が必要になっていた。その費用を賄うため、北西側の樹齢約60年のヒノキを伐採し、その跡地を活用することにした。
30年ほど前、山の東側で伐採したヒノキを業者に売却して、苗木を植え直した際には1400万円の利益があったが、今回は180万円。県の補助金が得られなかったら、枝葉の撤去と鹿よけの網の設置にかかる費用で赤字になるところだったという。自治区の区長加藤克久さん(67)は「木の値段は下がる一方だし、住民も減っている。神社の修理ができ、住民挙げて桜の植樹ができるのは、今しかなかった」と説明する。
神殿町は、空き家への移住者を募っているが、住民は123人と、この10年間で1割以上も減った。14歳以下は10人。元区長で計画を進める松田敏明さん(71)は「せめて、将来の集落の担い手には、シンボルとなる財産を残しておきたい」と話している。(臼井昭仁)