(15日、大相撲九州場所5日目)
支度部屋に戻った錦木は駆けつけた報道陣を制するように「ノーコメント」と言った。でもにこにこ顔だから冗談だとわかる。「たまたま勝ったようなもん。無理やりですよね」。口調は滑らかだ。
豪栄道に両差しを許して絶体絶命。だが、後ずさりしながらの捨て身の小手投げが決まった。ようやくの初白星が大関戦初勝利だ。
盛岡市出身。中学卒業後の2006年春場所に初土俵を踏んだ。新入幕まで10年かかったが、174キロまで体を大きくし、突き押しの威力が増した。秋場所は10勝。今場所は28歳にして、自己最高位の東前頭3枚目につけた。
初めての上位戦は歓声も大きいが、平常心は保てている。理由は「よく見えないから」。視力は0・1以下。トレードマークの黒縁メガネは花道で付け人に預けるため観客がほぼ見えず、緊張しないという。
今場所は特別だ。「『結婚したから落ちた』と言われたくない」。幕下時代から交際していた女性と婚姻届を提出したばかり。「ここから頑張ります」。殊勲の1勝を飛躍のきっかけにしたい。(岩佐友)