人手不足から移民への依存を強めてきた欧州の労働市場に変化が起きている。
「過酷な仕事なのに、見合う給料を全然もらえていない」。英国南部フックのガストロパブで働く調理師グレン・チャーチスさん(29)は週に3日、朝9時から夜11時まで働く。それでも年収は英国の常勤労働者の中央値を10%ほど下回る2万7千ポンド(約388万円)だ。労働条件への不満は強まるばかりだ。
不満の矛先は、ともに働く移民労働者にも向かう。店は慢性的に人手不足だが英国人は応募してこないため、調理担当はほかにハンガリーからの3人とポーランドの2人。彼らはいま、同じEU加盟国民のため、英国で働くのに特別な許可は原則不要だ。「彼らは安い給料で働くことをいとわない。政府は自国民の扱い方を間違っている」。チャーチスさんはEU離脱を問う国民投票では賛成票を投じた。「離脱後はもらえるべき給料になるはずだ」と期待する。
高齢化で自国民の労働力人口が減る中、移民は英国経済に欠かせない存在になっている。中でも、経済的格差が大きい東欧の労働者の存在感が高まっている。
英国統計局(ONS)によると今、英国で最も多い外国人はポーランド人で、EUに加盟した2004年から18年の間に9倍になった。旧植民地のインド、パキスタンが続き、同期間に約30倍に激増したルーマニア(07年にEU加盟)は4番目に多い。
オックスフォード大移民観測所の分析では、雇用されている労働者のうち18%(17年)が外国人。EU移民は特別な技能を必要とせず、一般的に待遇がよくない業種に集中し、食品包装業、食品製造業では4割を超える。料理人や清掃業も2割を占める。
問題はこうした業種で働くEU移民の存在が、一部の英国人にマイナスの影響を与えている可能性があることだ。英政府の諮問機関が9月にまとめた報告書によると、1993年から2017年までの間、EU移民の影響で所得が下位25%以下の英国人労働者の賃金が、短期的に減少したとみられると指摘。影響は所得が低いほど大きく、下位5%以下の人は賃金が5・2%下押しされたと考えられるとした。英イングランド銀行の研究(15年)でも、清掃現場や飲食業などで単純労働に従事する移民が一定割合増えると、その業種の英国人の平均賃金は2%下がると指摘している。
こうした分析を裏付けるように…