外国人による国民健康保険(国保)の不正利用に対する市区町村の調査権限を強化するため、厚生労働省は来年の通常国会への国民健康保険法改正案の提出をめざす。外国人の受け入れ拡大に備え、自民党から不正利用対策を強めるよう求められたことへの対応。ただ、厚労省が14日に公表した実態調査で、外国人の不正が確認された事例はなかった。
国保は、留学生や経営者らが加入する公的医療保険。治療目的で入国すると治療費は全額自己負担となるため、外国人が入国目的を偽って国保を使うことへの懸念が医療現場や自民党から上がっている。
現行制度で市区町村は、国保窓口などで在留資格通りに活動しているか被保険者の外国人本人に確認できる。法改正案ではそれに加え、学校や職場、取引先などにも就学・就労状況を調査できるようにする。
厚労省は今年1月、市区町村に対して、外国人が在留資格通りの活動をしているか国保窓口で確かめ、疑いがあれば入国管理局に通報するよう依頼。5月末時点までに市区町村が通報した件数は2件で、いずれも身分を偽る不正は確認できなかったことを、14日に自民党「在留外国人に係る医療ワーキンググループ(WG)」で公表した。
さらに、国保の利用実態調査の結果も公表。今年4月時点の外国人の加入者は99万人で、日本人を合わせた全加入者の3・4%。2017年度に外国人が国内で使った国保の医療費は961億円(全体の0・99%)で、海外で治療した際の海外療養費は1・7億円(同34・7%)だった。海外療養費は年々減少しているという。
調査からは懸念が先行する状況が浮き彫りになった形だが、WGはこの日、市区町村の調査権限の強化を提言。これを受けた形で、厚労省は法改正の方針を明らかにした。加えてWGは、他人の保険証を使って受診することがないよう医療機関で写真付きの在留カードの提示を求めるといった不正防止策も提言した。(西村圭史)