今年の映画回顧には、絶対に欠かせない作品が2本ある。言うまでもなかろう。是枝裕和監督「万引き家族」と上田慎一郎監督「カメラを止めるな!」である。
疑似家族の崩壊を描いた前者はカンヌ映画祭で日本映画として21年ぶりのパルムドールを獲得し、興行収入が45億円を超えた。映画製作の舞台裏にカメラを向けた後者は300万円で作られた。SNSで反響を呼び、興収は製作費の1千倍に当たる31億円に達した。
一方、外国映画でもロックミュージシャンのフレディ・マーキュリーを主人公にした「ボヘミアン・ラプソディ」が今、観客を集め続けている。こちらも興行的にはダークホース。何かのきっかけで火が付くと想像を超える爆発的ヒットが生まれる時代が訪れた。
興行の話題はそれくらいにして本紙批評家3人が挙げる「私の3点」に目を転じると、日本も外国も、新鋭監督の台頭が目立っている。全9本のうち、評価が定まっている監督は「デトロイト」のキャスリン・ビグローくらいか。
今年の米アカデミー賞を「シェイプ・オブ・ウォーター」と争った「スリー・ビルボード」。監督のマーティン・マクドナーは著名な劇作家だが、映画の実績は未知数だった。ホラーファンを熱狂させた「ヘレディタリー/継承」のアリ・アスター監督は、これが長編デビュー作だ。
日本でも、新鋭監督の作品が映画賞の候補に挙がりそうだ。男2人女1人の三角関係を扱った「きみの鳥はうたえる」の三宅唱監督のほか、兄の自殺という自らの体験を元にした「鈴木家の噓」の野尻克己監督、吃音(きつおん)の少女を叙情的に描いた「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」の湯浅弘章監督。
「ハッピーアワー」ですでに自主製作の雄となっていた濱口竜介監督は、柴崎友香原作のラブストーリー「寝ても覚めても」で、初めて商業映画を手がけた。「万引き家族」とともに、カンヌ映画祭のコンペに選ばれた。「カメラを止めるな!」の上田監督も含め、新しい風が吹き始めている。
一方、ベテラン監督はどうして…