「倉庫のタマネギは腐っている。高い食べ物を国民に食べさせる権利は誰にもない」。トルコのエルドアン大統領がこう演説した昨年11月21日の前後、各地のタマネギの卸売業者や農家に行政警察の一斉査察が入った。
レンズ豆のスープ、キョフテ(肉団子)、マントゥ(水ギョーザ)。家庭料理に欠かせないタマネギの価格が昨年11月、前月比で50%も上がった。査察は、業者が在庫を出し渋っているとの疑いによるものだ。
首都アンカラから約70キロ南西のポラトルは国内のタマネギの3割を生産する。卸売業を営むギュルカン・ディピリさん(53)の倉庫も査察を受けた。ディピリさんは「価格上昇は、夏の長雨でタマネギに病気が広がり、生産量が減ったからだ。高値を待っているわけではない」と訴える。
5千平方メートルの巨大な倉庫内では、約50人の従業員がタマネギの山の中から、病気で黒ずんだものを取り除いていた。過去に例がないくらい多いという。アンカラ青果仲買組合によると、ポラトルのタマネギ収穫量は昨年から3割減。リラ安で輸入の種や燃料、肥料などの費用がかさんだことも価格を押し上げている。
別の卸売業の男性(50)は「インフレを抑えられない政権は、我々を悪者にして消費者の味方を演じる必要があったのだろう」と推測する。
査察のかいもなく、タマネギの価格が落ち着く気配はない。政府は今月15日、タマネギの輸入関税を2月末まで撤廃する措置を打ち出した。外国産で供給量を確保し、価格の安定を図るしかないと判断したとみられる。
通貨リラの急落をきっかけとした物価上昇が、トルコの市民生活を苦しめている。
トルコ経済はなぜ苦境にあるのか。現地の日本企業関係者は「対米関係悪化は引き金にすぎない」として、別の原因を指摘する。
■3月に迫る…