沖縄でプロ野球の春季キャンプが始まって今年で４０周年。温暖な気候が受け入れられ、今や１軍キャンプは９球団にも上る。１９７９年から一番乗りしたのは日本ハムだ。県庁所在地の那覇市ではなく、なぜ、本島北部の名護市をキャンプ地に選んだのか。

日本ハムは米アリゾナ州での１次キャンプを終え、１５日から名護で２次キャンプをスタートさせた。沖縄と関係を強めたきっかけは７７年、当時の本拠地だった後楽園スタジアムの公式戦で行った「沖縄デー」だという。本土復帰５周年を記念し、沖縄をＰＲしたイベントだった。

当時の春季キャンプ地は四国や九州地方が主流で、日本ハムのそれは本社の前身、「徳島ハム」にゆかりのある徳島県鳴門市。のちに球団オーナー代行を務め、当時は取締役管理部長だった小嶋武士さん（７６）によれば、２月は寒く、手がかじかんでは火鉢で温めながら鍛錬していたという。そのため温暖な地でキャンプを張れないか思案していたところ、沖縄デーで沖縄県観光連盟などから声をかけられた。

日本ハムの初代オーナーで２００９年に野球殿堂入りした故・大社（おおこそ）義規氏は、７５年に大リーグ・ヤンキースと業務提携するなど進取の精神の持ち主。沖縄への移転も、即オーケーの返事だったという。

問題はどの自治体の球場を使うかだった。７８年冬、小嶋さんらは現地におもむき、キャンプ地に適した球場を探し求めた。

なぜ、空港が近く、アクセスのいい那覇市の奥武山球場（現・沖縄セルラースタジアム那覇）ではなかったのか。「幹線通り沿いにあって、人をけがさせる危険性があったから」。小嶋さんは振り返る。どういうことか。例えば、８０年に来日し、「サモアの怪人」と呼ばれたソレイタの怪力では、打球が外野フェンスを越えて幹線道路まで飛ぶ恐れがあった。宜野湾市立野球場（現・アトムホーム宜野湾）は、海風が強かったため選択肢から外れたという。

「ぜひやって欲しい」。名護市が、２年間の猶予があれば市営球場を整備できると名のり出たのが決め手になる。７９年から２年間は投手陣が名護でキャンプを張り、８１年からは野手もそろって１軍キャンプを実施。名護市はグラウンドの土を赤土から本土の黒土に入れ替えるなど、手探りで球場を整備してきた。

江夏や新庄、ダルビッシュ、大谷……。名選手が開幕に向けて体を仕上げてきた名護市営球場も近年は老朽化。球団が改善を要望し続け、名護市はようやく改修に乗りだし、今年１２月に完成する予定だ。

２月のプロ野球キャンプは、閑散期のため誘客に頭を悩ませていた冬季の沖縄観光にとっても大きな目玉となった。「スポーツ・ツーリズム」を進める沖縄県も専用ホームページで各球団の練習メニューを紹介するなどＰＲに力を入れる。りゅうぎん総合研究所による経済効果の試算は、阪神が沖縄キャンプを始めた０３年（当時は７球団）の約３２億１千万円から、昨年（９球団）は約１２２億９千万円と４倍近くになり、一大産業になっている。（笠井正基）