山形県内の特殊詐欺の被害が止まらない。昨年1年間の被害総額は約1億9千万円(暫定値)と7年連続で1億円を超えた。山形県警は、在宅時も留守番電話を使い、犯人と会話をしない「居留守」作戦を呼び掛ける。孫たちの力も借りた防犯に乗り出している。
2月18日、天童市北久野本5丁目のあけぼの幼稚園で、年長組の園児ら約45人が「留守番電話に設定」「通話を録音する」などと印字された紙にクレヨンで人や花、星など絵を描き込んでいた。それぞれカラフルな手作りポスターが完成した。
荒井翔瑛君(6)はさっそく、ポスターを手に祖父の原田光雄さん(71)宅に行った。原田さんは、電話機付近の壁にポスターをぺたり。「孫からもらったものは全部、宝物ですよ。じいちゃんばあちゃんは、孫の言うことはよく聞くから被害防止にいいと思う」と目を細めた。
「孫効果」を見込んだポスター作りを企画したのは天童署だ。山形は2015年の国勢調査で、3世代同居をしている率が17・8%と、全国平均よりも12・1ポイントも高く、断然の全国1位。犯人が「家族に言うな」と口止めして被害にあうケースもあるため、孫の果たす役割に期待している。高橋直人生活安全課長は「警察が作ったポスターを配っても関係ないと捨てている人もいると思う。孫からもらったポスターなら捨てにくい」と話す。
犯人の電話、まず「居留守」を
県警が「居留守」作戦を広めようとしているのには理由がある。
昨年、県内で発生した被害計46件のうち、犯人からの最初の接触が自宅への電話だったのは31件と、7割近くに上る。県警が、固定電話が発端で被害に遭った18人にアンケートしたところ、ほとんどの人がオレオレ詐欺や還付金詐欺を知っていた。また「非通知」からの着信には出ないなどの対策を6人がとっていた。
一方で、犯人の電話を信じた理由は「警察官や市役所の職員という相手の肩書を信用した」と答えた人が多かった。家族などに相談をしなかった理由についても「電話の話を信じ込んだ」という。県警生活安全企画課は「相手はプロの犯罪集団。被害者は手口を知っていても、犯人の巧みな話術によって冷静さを失い、だまされてしまう」と分析する。
そこで活用するのが留守電だ。犯人は、自分の声を録音されることを嫌うといい、在宅時にも留守電を設定することで犯人と会話することを防ぐ。また、犯人の声が録音されることで、冷静になって内容を考えることができる。
県警は昨年12月、特殊詐欺関連の電話が多発しているエリアを「モデル地区」に設定。地区の全世帯に、留守電の設定を呼びかけている。2月中をめどに効果を検証するという。
ただ、最近は、役所や裁判所を装ったはがきを送って「電話せよ」と指示するなど、最初の接触が自宅電話ではない架空請求被害が増えており、県警は改めて注意を呼び掛けている。(宮谷由枝)