まだあどけない18歳のクロスカントリー選手が日本勢史上最年少で金メダルをつかんだ。カナダ・プリンスジョージで2月24日まで開かれた障害者ノルディックスキーの世界選手権・距離男子立位ロング・クラシカル(20キロ)に出場した平昌(ピョンチャン)パラリンピック代表の川除大輝(かわよけたいき、日立ソリューションズJSC)。男女を通じて日本勢史上2人目の快挙を、富山・雄山高の3年生が達成できたのはなぜか。
日本代表の荒井秀樹監督によると、同選手権で日本勢が頂点に立つのは、2003年大会距離男子10キロクラシカル(立位)を制した新田佳浩(38)=当時筑波大、現日立ソリューションズ=以来。
遠征先のカナダから、川除は2月26日に帰国した。身長161センチ、体重52キロ。昨年より1センチ身長が伸び、成長途上にある。表彰式で、2、3位の大柄な外国選手に担がれて祝福されたという。「びっくりした。世界に認められた気がして、すごくうれしかった」
生まれつき両手足の指の一部がない。障害の程度によるクラス分けではストックを持たないクラスに入り、両腕を前後に大きく振って滑る。一般的に、大柄な選手の方がパワーがあり、滑るときに加速しやすい。それでも川除が勝てた理由の一つは、その滑り。「素早く動けて、リズミカルに滑れる選手はめったにいない。スキーは小さいころからやっていたのでセンスは抜群」。10年にこの競技に勧誘し、指導してきた荒井監督は目を細める。
もう一つはワックスの選択。レースのあった24日朝は手元の温度計で零下32度を記録し、試合開始が1時間遅れた。スタートした午前11時の気温は零下約12度、雪温は同約16度。レースが進むに連れて温かくなる天候状況で、どのワックスを選ぶかは難しい。「それがはまった。大輝の力はもちろん、スタッフの力も大きかった」と荒井監督は言う。
川除もスキーが滑ることを確信し、序盤から飛ばしたという。「最初から攻めるレースをしようと。後半に疲れが出たが、最後の力を振り絞った」。ゴール後は大の字になったという。「20代前半でメダルが取れるかなと思っていたので、まさかこんな早く取れるとは」
4種目に出場した昨年3月の平昌パラリンピックで、目に焼き付けた光景が忘れられない。あこがれてきた新田が10キロクラシカル(立位)で金メダルを獲得し、表彰されたメダルセレモニーだ。その種目で川除は10位。「すごい。自分もその場に立ちたい」
技術的には滑りに無駄が多く、うまく力を伝え切れていなかったという。「腰が落ちていたので、もっと高くして前傾で滑れるようにした」。重心を高くできればグリップワックスを塗るスキー板のキックゾーンを短くでき、その分、速く滑れる。昨夏はトレイルランの大会に出るなど走り込み、雪上では滑り込んだという。昨年12月にあった障害者スキーのワールドカップ(W杯)初戦で自身初の表彰台となる2位。世界で戦える自信が膨らんだ。
2月26日に帰国した息子を出迎えた父の大輔さんも感慨深げだ。「障害があっても一生懸命諦めずにやって結果を残して、名前の通り、大きく輝いてくれた」
3月13日からは札幌で開幕するW杯に挑む。川除は「重圧を感じず、いま持っている力を発揮して金メダルを取りたい」。この春からは古豪、日大に進学する予定だ。(笠井正基)