第91回選抜高校野球が23日に開幕する。過去に春夏合わせて21度出場した米子東は、ベンチ入り16人ながら、23年ぶりに全国の舞台に返り咲く。選手の効果的な成長を促す、主体性を重んじる取り組みが実った。
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研究でたどり着いた作戦
昨秋、呉(広島)と対戦した中国大会準決勝。同点の延長十回、野手の失策や四球で1死一、二塁のピンチにもかかわらず、マウンドに集まった米子東の選手たちは笑顔だった。直後に2人を打ち取り、この試合を延長十三回タイブレークの末に制した。規定の上限より2人少ないベンチ入りメンバー16人で準優勝し、選抜への切符をたぐり寄せた。
チームはこの秋、「笑顔で野球をすること」に意識的に取り組んだ。精神論ではない。自分たちの研究でたどり着いた「作戦」の一つだった。
生徒自身で研究テーマを定めて学ぶ「探求授業」の一環で、エースの森下祐樹(2年)と、4番の福島悠高(2年)らが笑顔がもたらす効果を研究した。メンタルトレーニングの講演で、「笑顔でプレーするとパフォーマンスが上がる」と教えられ、「本当なのか」という疑問が浮かんだからだ。
昨年の夏休み、笑顔(ポジティブ)、ネガティブ、怒りの3種類の言動をとった後の筋力や敏捷(びんしょう)性などを測った。37人と少ないサンプル数だったが、笑顔の時が最も高い数値になった。研究成果をすぐにチームで実行に移した。試合前は輪になり、笑顔を10秒間キープ。普段から互いの顔を見合い、笑顔を作る練習もしてきた。
森下は、マウンドで「笑顔を作れ」と言い続け、自らも昨秋の公式戦では6試合を完投した。「大事な場面で『三振したらだめだ』などと考えて硬くなりがちだった」という福島悠は、昨春から夏にかけて打率1割台と低迷。笑顔を意識すると、「自信がわいて、冷静に球を見極められるようになった」。出場した6試合で1本塁打を含む9安打11打点。選抜出場の立役者となった。
ゴロ打ちは正しいか
主将の福島康太(2年)ら5人の部員は、「ゴロ打ちは正しいか」という研究に取り組んだ。中学までにゴロ打ちがいいと習ったが、高校でフライ打ちを推奨されたことから、「どちらがいいのか」というモヤモヤが生まれたことがきっかけだった。過去のスコアブックの内容を分析すると、ゴロでアウトになった数が多い選手ほど、長打を放ったり出塁したりすることが少ない傾向があり、結果として得点に絡みにくいというデータを得た。福島康は「自分たちの取り組みに、より自信を持てるようになった」と手応えを口にする。
受け身ではなく、自ら進んで試行錯誤する。主体性を育む取り組みは、これだけではない。
自身の課題に向き合えるよう、昨年2月から、企業やプロスポーツチームなどが人材育成のために活用する自己管理方法を導入。野球に関するものから、「授業中に寝ない」「朝は納豆を1パック食べる」といった生活面まで、自らが決めた行動をチェックリスト化した用紙などを、野球ノート代わりに毎日、紙本庸由(のぶゆき)監督(37)に提出する。紙本監督は「自分が納得して決めた行動は、やらされるよりもずっと効果が出る」と話す。
選手権と選抜に計21度出場し、1960年の選抜大会では準優勝も経験した古豪。主体性をもって野球と向き合ったことで部員一人ひとりが成長し、23年ぶりに重い扉をこじ開けた。(高岡佐也子)