23日に開幕する第91回選抜高校野球には、21世紀枠で選ばれた3校が初出場する。石岡一は約4割の部員が農業系学科に在籍し、実習と部活動を両立させてきた。「新たな文武両道を示す可能性がある」などと評価された県立高のグラウンドを訪ねた。
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練習中にどんぶり1杯
2月、グラウンド脇のベンチにペットボトルが詰まった段ボールが置かれていた。女子マネジャーに中身を尋ねると、「搾りたての牛乳です」。部室には「好きです! 茨城米」の文字が入った米袋が積まれていた。
練習が始まると、マネジャーたちが米を研ぎ始めた。4升を炊き、練習中に1人がどんぶり1杯ほどを平らげる。体づくりの一環だ。この日のおかずは卵やとんかつ。購入することもあるが、食材の多くは近隣の農家や卒業生からの差し入れだという。
石岡市は茨城県中央部に位置する。部員全員が県内出身で自宅通学だ。農学校が母体の県立高で普通科のほかに園芸科、造園科があり、部員49人のうち22人はこの2学科で学ぶ。約4キロ離れた農場での実習が優先されるため、夏休みの練習試合では主力を欠くことがあり、平日も部員がそろいにくい。
そんな野球に関しては恵まれたとは言えない環境のなか、石岡市出身で竜ケ崎一(茨城)で選手として夏の甲子園を経験し、10年前に就任した川井政平(しょうへい)監督(44)のもとで力をつけた。16、17年と春の関東大会に出場し、昨秋県大会は明秀日立、土浦日大の強豪を破って4強に進んだ。
短時間ながら工夫をこらした練習を重ねており、大学進学率とは違う、農業を通じた「新しい形の文武両道を示す可能性がある」などとして21世紀枠で選ばれた。
地元の支え血肉に
エース岩本大地(2年)は最速147キロを誇る。「地元の学校で私学を倒して甲子園に出たかった」と愛着のあった石岡一に進学。祖父の庭作業を手伝った経験から「木を切ることや実習が面白そう」と造園科を選んだ。3級造園技能士の国家資格を持つ。
川井監督は農業系学科の生徒の特色を、「自分が10代の頃は名も知らなかった葉や木の枝とふれあって野菜を育て収穫する。感受性が豊かだし、グラウンド整備など何かを丁寧に仕上げる作業をいとわない」と話す。
昨夏の全国選手権で準優勝した金足(かなあし)農(秋田)の躍進は大きな励みだ。同じ農業系で、地元出身者が中心の公立校。エースは右の本格派という点も似通う。実際、岩本は金足農のエースだった吉田輝星(こうせい、日本ハム)を手本とする。
地元の温かさもまた共通点だろう。普通科で学ぶ主将の酒井淳志(2年)は言う。「グラウンドに来て下さる方と名前を覚え合っているほど距離が近く、選抜が決まった時もたくさん集まってくれた。差し入れを下さり、応援して下さる地域の方に、甲子園でいい姿を見せて恩返しがしたいんです」。人情味ある支えを血肉とし、春夏通じて初となる甲子園に立つ。(竹田竜世)