思考のプリズム 松田青子
数年前、イギリスの書店で買った詩集のページを開くと、こんな文章が目に入った。「この本は以下のセンシティブな題材を含みます。幼児虐待、近親者による虐待、いじめ、性的暴行、自傷行為、摂食障害、クィア嫌悪、生理、アルコール依存症、人種差別、トラウマ、死、自殺、悲しみ、癌(がん)、火災、あるいは他にも。読書中もその前後も、自分自身を大切にすることを忘れないでください」
英語では「trigger warnings」と呼ばれる、人々に心的外傷後ストレス障害や不快感を誘発させないよう事前に警告するこのメッセージを、何かしら目にしたことのある方も多いだろう。たとえば、劇中に津波の場面がある作品の上映前に、スクリーンに注意書きが映し出されるのも、この「事前警告」だ。最近も、公開中のあるアクション映画に出てくる津波の場面についてのSNSの投稿が回ってきた。事前に警告されるだけでは不親切だと感じたその投稿者は、気になる人だけが読めるようなかたちで、映画のどのあたりでその場面が現れるのか、書き記してくれていた。事前警告は、懸念の箇所がまったく気にならない人にとっては必要性がわからないかもしれないが、それによって安心できる人もいるのだ。
先日、大学の公開講座を受けた…