昨春の準優勝校、智弁和歌山(和歌山)は31日、明石商(兵庫)との準々決勝で敗れ、25年ぶりの優勝はならなかった。実戦経験の豊富さと言葉でチームを引っ張る主将の黒川史陽(ふみや)君(3年)は「甲子園は甘い場所ではない。日本一の練習をして、日本一を目指します」と雪辱を期した。
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同校は今大会まで4季連続で甲子園に出場。二塁手の黒川君は捕手の東妻純平君(同)、遊撃手の西川晋太郎君(同)とともにすべてでメンバー入りした。昨春の準々決勝でサヨナラ適時打を放つなど、実力は部員たちに認められている。
今大会でも1回戦の熊本西(熊本)戦で2打席連続で適時打を放ち、2回戦の啓新(福井)戦でも2安打。この日の準々決勝も五回の反撃の適時打など2安打して攻撃の要になった。
練習では顔色を変えることなく人一倍集中し、だれも手を抜く姿を見たことがない。投手の池田陽佑君(同)は「練習になると怖い」というほどだ。昨夏の新チーム結成時には高嶋仁前監督から主将に任命された。
さらに、黒川君から発せられる「言葉」はチームに刺激を与え続けている。
「ミスしても下を向かずに次を考え、他の人のミスはみんなでカバーする」。佐藤樹(たつき)君(同)は、不調時に部員に語りかけた前向きな言葉を覚えている。
「遊びに来たのではなく日本一になるために来た。集中してしっかりやろう」。甲子園に来てからそう伝えた黒川君。この日も、相手にリードを許している場面でも「打ち取られた分、打ち取るぞ」とベンチで声をかけ、盛り上げた。
使うたとえにもみんなが得心する。2月の練習前、黒川君は部員に「うまいたこ焼き屋は、10回作ったら10回全部うまい」と伝えた。?が浮かぶ選手に「野球も同じ。ミスせず毎回同じようにきっちりプレーしなきゃいけない」と説明し、みんながうなずいた。
中谷仁監督(39)も影響されて、ノックで部員がミスしたときに「まずいたこ焼き売れるのかあ」と叱咤(しった)した。
今季の部のスローガン「驚異的」を考えたのも黒川君だ。勝つチームになるためには周りが驚くようなプレー、相手を脅かすプレー、気持ちの強さが必要と考えスローガンに決めた。「脅威・強意」ともかけている。
黒川君が部員に言葉で伝えるときに注意していることは「みんなの印象に残ること」。特に本などを読んで勉強したわけではないという。父の洋行さん(43)によると、小さい頃からお笑いが好きで、芸人をまねして友達を笑わせ、中学の野球チームを卒団するときのスピーチでは涙を誘ったという。「人前で話す経験が積み重なり、磨かれたのではないか」と話す。
テレビのインタビューなどで息子がしっかりと受け答えする姿を見て「野球を通じて成長させてもらっているなあ」と感慨深くなるという。(成田愛恵、西岡矩毅)