(31日、選抜高校野球 明石商4―3智弁和歌山)
ニュースや動画をリアルタイムで!「バーチャル高校野球」
捕手は「損」な役割だ。抑えて勝てば「投手が良かった」とほめたたえ、打たれて負ければ「自分のリードが悪かった」と言う。それがある意味で「美徳」とされている。
サヨナラ本塁打を浴びて敗戦。智弁和歌山の捕手、東妻純平(3年)はぐっと歯を食いしばって、試合後の取材に答えた。「悔しいです。僕のミスです」と。
外角ぎりぎり。いや、少しボール気味にミットを構えた。九回、明石商の先頭打者、来田涼斗(2年)をカウント2―2と追い込んだ場面。「長打だけはダメ」とはもちろん分かっている。それが、ど真ん中に入ってきた。
「僕がもう少し、ボールゾーンに構えるべきだった」。打たれた投手に責任を負わせるような発言は、一切なかった。
中学時代は遊撃手で、捕手に転向したのは高校からだ。肩の強さを見込まれた。阪神、楽天、巨人の捕手として、15年間働いた中谷仁監督(昨年まではコーチ)に捕球から配球、捕手としての心構えまで、一からたたき込まれた。
まだまだ未熟だった昨春の選抜。準決勝の東海大相模(神奈川)戦では「本塁打だけは気をつけろ」と言われたのに打たれた。回が終わってベンチに戻ると、高嶋仁・前監督から鬼の形相で怒鳴られた。試合のたびに反省し、「どうすべきだったか」を考え、少しずつ成長してきたのだ。
この日は背番号11の池田泰騎と18の小林樹斗、2人の2年生投手を懸命にリードした。七回無死一、二塁の守りでは、すさまじい二塁牽制(けんせい)で走者を刺し、ピンチの芽をつんだ。「絶対に点はやれない。去年から成長したのは責任感です」。4番としても2安打。勝てば間違いなく、殊勲者だった。
中谷監督はサヨナラの場面をこう振り返った。「長打を警戒して外を要求したのが、内に入ったのでしょう」。東妻の意図を肯定する言葉だ。それでも、東妻は考える。「ストライクからボールになるフォークという選択肢もあったし……」
昨春は準優勝。「最強」と言われた大阪桐蔭と戦った経験は大きな財産だ。頂点に立つイメージは「できているんですけど。まだまだでしたね」。そして、こう続ける。「この経験を生かして、夏は必ず日本一になりたい」。そのときの喜びはきっと、誰よりも大きいはずだ。(山口史朗)