超有名店「ビレッジパーク」のナシレマ。揚げたチキンと食べるのが定番の組み合わせだ=クアラルンプール、守真弓撮影
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「マレーシア料理は世界では不人気」
先月、こんな見出しがマレーシアメディアの見出しを飾った。世論調査会社ユーガブが世界24カ国の計2万5千人に各国の料理の評価を聞いたところ、マレーシア料理は34カ国中20位。マレーシア国民の97%は高く評価したものの、世界全体でマレーシア料理をおいしいと答えたのは48%だった。
「マレーシア料理を誇っていた我々は幻想の中に生きていたのか」「サンプルに使われた食事の出来が悪かったのではないか」――。地元メディアはこの結果を驚きをもって報じた。ラジオ番組のDJは、食文化の似ているシンガポールやインドネシアにも順位で負けたことに「我々は対外アピールが下手すぎる」と怒った。
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多民族国家のマレーシア
このニュースを見ていて不思議になった。マレーシアは国民の6割を「ブミプトラ(土地の子)」と呼ばれるマレー系や先住民が、2割を中華系が、1割弱をインド系が占める多民族国家だ。マレーシア料理と言われてもどんな料理を指すのか、ぴんと来ない。
そんな疑問を元通信社記者でフードコラムニストのショーン・ヨンさんにぶつけると、すぐに答えが返ってきた。「ナシレマはマレーシアの国民食と言っていいと思います」
ショーンさんによると、ナシレマとはココナツミルクで炊いたごはんのこと。マレー語でナシはごはん、レマは油を意味する。唐辛子やスパイスをペースト状にしたサンバル、ゆで卵、カリッと揚げた小魚と一緒に食べる一皿料理で、もとはバナナの葉に包んで持ち歩く、マレー系労働者の朝ご飯だった。
午後2時半をすぎても満席に近いビレッジパークの店内。壁には来店したマハティール首相の写真が飾られていた=クアラルンプール、守真弓撮影
マレーシアでは30年ほど前から、国の発展とともに外食産業が発達し、家庭内で食べられていた料理を他の民族も口にする機会が増え、食文化が急速に混ざり合っていった。中でもすべての民族に共通して愛されるようになったのが、ナシレマなのだという。「マレーシアの土地で潤沢にとれるコメとココナツはどの民族も食べていた。だから誰にでも親しみやすい味だったんです」
そういえば、昨年はマクドナルドがココナツ風味のチキンを使ったナシレマバーガーを売り出したとニュースになった。ほかにもナシレマ味のアイスクリームや、ナシレマの材料を使ったすし、ごはんごと乗せたピザ……。街を見渡せばマレーシア人のナシレマ愛はそこかしこにあふれていた。
ナシレマキング
中でも「世界で一番有名なナシレマ店」があると聞いて、クアラルンプール市内の「ビレッジパーク」を訪ねた。
すいている時間を狙い、平日午後2時すぎに向かったのに、まだ満席に近い。過去3代の首相が来店したこともあるといい、壁にはナシレマを食べるマハティール首相夫妻の巨大な写真が飾られていた。
最もスタンダードな10・5リンギ(約280円)のセットを注文。数分でプラスチックの皿にサンバル、小魚、卵の3点セットに揚げた鶏肉がついたナシレマが到着した。
まずはごはんだけ口に入れる。…