高校野球の春季大阪府大会で13日、昨年、選抜大会と全国選手権の春夏連覇を果たした大阪桐蔭が登場。2回戦で大阪市立の東(ひがし)を10―0(五回コールド)で下した。選抜への出場を逃し、その悔しさを胸に臨んだ春の初陣。選手たちの表情が緩むことはなかった。
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2点を先行した三回の攻撃。なお無死二、三塁で、中前に勢いよく白球が転がる。走者2人が生還。大阪桐蔭にとって主導権を握る適時打なのに、ベンチの味方から厳しい声が飛んだ。「いけるやろ!」。それは、ヒットを放った3番西野力矢(2年)に向けられたものだった。
この回、一挙9得点。なぜ、仲間は西野に厳しかったのか。主将の中野波来(はる)(3年)が思いを代弁する。「チームとして(打つ)技術がない分、走塁で先の塁、先の塁を意識してきた」。捕球した東の中堅手から送球は本塁へ。西野は一塁ベース付近で止まっていた。「いくら西野の足が遅いからって、(二塁を)狙えたと思う」
昨秋は近畿大会8強。選抜に手が届かず、史上初となる春3連覇への道は断たれた。俊足強打の藤原恭大(きょうた)(ロッテ)、エース右腕の柿木蓮(れん)(日本ハム)、そして投打の柱だった根尾昂(あきら)(中日)ら昨年の最上級生のように、チームの核となる選手も現れなかった。
中野も、「去年みたいに完封できる投手もいないし、ばんばんホームランを打てるバッターもいない」と認める。足りない力を埋めるため、技術がなくても大事にできる「声」と「全力疾走」をテーマにして、磨いてきた。その後者を怠った西野に、仲間は容赦なかった。
大阪桐蔭の真骨頂は、選手のポテンシャルの高さではなく、「徹底力」だ。
一昨年の夏の甲子園3回戦、ほんのわずかな守備の隙から仙台育英に逆転サヨナラ負けを喫した。そのミスを糧にした昨年のチームは、どんな展開でも内野陣が絶え間なく指示を出し合い、走者が出るたびに投手に声をかけた。昨年の主将、中川卓也(早大)から「隙のないチーム作りを」と何度聞いたことか。昨春の甲子園では5試合で3失策、夏は6試合で4失策。守備力の高さも光った春夏連覇だった。
今年のチームには、まだそこまでの徹底力は感じない。ただ、中野の言葉に、飛躍の気配を感じた。「攻撃で積極的に仕掛けていけないのが、自分たちの弱さです。チームの完成度は、まだまだ低い」。偉業を成し遂げた先輩たちにはもう一つ、輝くものがあった。どんな結果でも慢心せず、とことん反省点と向き合う。その姿勢は、しっかりと継承されている。(小俣勇貴)